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第4回天文宇宙検定受験者データおよび講評

○第4回天文宇宙検定受験者データ

第4回天文宇宙検定(2014年10月12日開催)
●最年少受験者
6歳

 

●最高齢受験者
82歳

 

●受験者男女比率
1級:男性89%、女性11%
2級:男性64%、女性36%
3級:男性51%、女性49%
4級:男性56%、女性44%

 

●合格率
1級:7.2%
2級:20.0%
3級:68.5%
4級:65.2%

 

●最高得点
1級:77点
2級:96点
3級:97点(2名)
4級:100点

 

●平均点
1級:49点
2級:58点
3級:66点
4級:66点

 

○第4回天文宇宙検定講評

■4級
例年通り、10代および10歳以下の受験者が約6割を占めた。今回は前回と比較してほぼ全世代において合格率が下がり、平均点が前回より9点低い結果となった。特に、10歳以下の受験者で合格率が前回より20%近く下がっている。原因としては、2年に1度のテキスト改訂により、テキストのボリュームが若干増えたことが考えられるが、若年層の受験者には、マークシートのマークミスで残念な結果となった受験者が少なからずいた。試験前には保護者の方と共に記入練習ができるように、事務局でも対応策を検討したい。
正答率が低かった問題をみてみよう。【問17】太陽の中心で発生した熱が太陽表面に伝わるのに要する時間を問う問題(正答率28.6%)。【問11】金星の地表の写真から撮影した探査機の名前を問う問題(正答率31.4%)。【問33】カシオペヤ座が4時間後に北極星に対してどの位置にあるかを問う問題(正答率36.1%)。【問5】二重星アルビレオは何座にあるか?(正答率40.2%)。【問13】太陽系から遠い恒星を選ぶ問題(正答率41.5%)。【問27】惑星状星雲の説明文のなかから間違っているものを選ぶ問題(正答率42.8%)。【問31】春の大三角に2等星が含まれていることを問う問題(正答率47.2%)。【問16】十七夜から二十夜までの月の古い呼び名を正しく並べているものを選ぶ問題(正答率48.5%)。
【問35】アポロ宇宙船を打ち上げたロケットの名前を問う問題(正答率49.0%)。以上9問は正答率が50%を切っている。いずれも記憶力を問う印象を受ける問題であり、今後の改善点であると考える。ちなみに、前回は、正答率50%以下の問題は1問だけであった。
正答率が高かった問題をみてみよう。【問15】図から午前10時の太陽の位置を示すものを選ぶ問題(正答率96.9%)。【問40】正しい太陽の観察方法を問う問題(正答率95.4%)。【問10】太陽活動が原因で起きる自然現象を問うもの(正答率93.6%)。【問25】環のない惑星を問う問題(86.3%)。【問37】火星の北極・南極の白く見える部分の名称を問う問題(正答率85.6%)。【問22】彗星の別名を問う問題(正答率82.7%)。太陽系の天体に関する問題は、正答率が高い傾向がみられる。改訂された4級公式テキストでは、太陽系天体について情報量が増えたが、テキストからしっかり知識を吸収している跡がみられる結果となった。

 

■3級
3級受験者の5割弱を占める20代・30代の合格率が、それぞれ59%⇒66%(3級30代)・68%⇒81%(3級40代)と前回よりも上がり、前回55%だった3級合格率を66%に引き上げた。例年、解答時間の不足が訴えられるため、計算問題など時間を要する問題の出題が委員により忌避されたのが遠因かもしれない。ただし、本検定では、単純に記憶力を試すだけではなく、計算などを含め論理的な思考力も身につけて欲しいので、来年度は、出題数の減数を検討していることを申し添えたい。
正答率が90%以上だった問題は以下のとおり。【問10】夏の大三角にふくまれないものを選ぶ問題(正答率97.6%)。【問75】惑星の英名と同じ響きの名前をもつ芸人を選ぶ問題(正答率97.0%)。【問25】惑星の名前の由来を問う問題(正答率95.5%)。【問36】アポロ11号の着陸した地点の名前を問う問題(正答率91.9%)。【問19】日本付近での星座の見え方について正しい記述を選ぶ問題(正答率91.9%)。【問48】国際宇宙ステーションの日本の実験棟の名前を問う問題(正答率91.8%)。【問58】太陽系の惑星の名前と神話の神の名の関連を問う問題(正答率91.0%)。【問1】衛星の概念を問う問題(正答率90.1%)。これらは、『公式問題集』や公式ホームページにアップされている過去問から、本検定の出題傾向をつかんで試験にのぞまれた方には、馴染みの問題と感じられただろう。
正答率が30%を切ったの問題は次のとおり。【問39】望遠鏡のイラストから、その望遠鏡をつくった天文学者の業績を選ぶ問題(正答率20.5%)。【問54】「遠くの星は暗い」という仮定から、天の川のかたちを推測する問題(正答率24.6%)。【問4】月が誕生するまでに要した時間を問う問題(正答率25.1%)【問26】現在の占星術の誕生した時期を問う問題(正答率29.8%)。【問42】初代グリニッジ天文台長を問う問題(正答率29.8%)。宇宙開発史については詳しいが、天文学史が苦手という方が多いのは、3級受験者に従来からみられる傾向だ。星や銀河の美しさにひかれ天文学に興味をもった方々にとって、天文学の知識をもたらした個人にまではなかなか興味が及ばないのかもしれない。先人たちの意外に人間くさいエピソードなどを『公式テキスト』で紹介して、天文学史に興味を持ってもらう試みが必要かもしれない。

 

■2級
今回の合格率は、前回の23.7%を下回り、20%であった。今回も40代以上において、合格率が高い傾向を示がみられた。細かく世代別の合格率をみてみると、40代:25%、50代:31%。60代:26%、70代:29%であった。3級よりも出題範囲が広くなる2級では、「年の功」ともいえる既知の知識量の多さで、若年層が不利ともいえるが、喜ばしいことに、今回も小学生の銀河博士が2名誕生している。点数分布をみてみると、合格まであとわずかの60点台の方が、2級受験者の27%を占めている。あともう少しの頑張りを期待したい。
正答率が20%を切った問題は3問。【問9】赤道上から水平に真東に向かって円軌道となるように打ち上げられたロケットの初速を計算する問題(正答率13.6%)。【問42】太陽コロナの解説で間違っているものを選ぶ問題(正答率16.9%)。【問1】銀河居住可能領域に銀河系中心に近すぎる領域が含まれない理由を選ぶ問題(正答率19.7%)。いずれも受験者の知識の曖昧さを突いた巧みな選択肢を創作された問題制作委員に惑わされてしまった受験者が多かったようだ。
正答率が90%を超えた問題は2問。【問49】宇宙ステーションでの滞在期間が長くなるほど人体への影響が低くなるものを問う問題(92.0%)。【問65】ボーデの法則で発見された小惑星を選ぶ問題(正答率90.7%)。
2級も3級と同様に、回答時間不足の声が多いため、次回より出題数を減ずる方向で検討する。また、試験後のアンケートでは、公式テキストの内容について、もう少し詳しい解説を載せて欲しいという声が散見された。次回に向けて予定している『2級公式テキスト』改訂に際して、対応を検討したい。

 

■1級
1級問題の多くは、実際に大学などの現場で天文学を教えている現役の研究者が出題してきた。しかし大学レベルの天文学となると、非常に広範で内容も濃くなるために、どうしても合格率が低くなるという課題があった。今回より、試験問題の約5割を公式参考書に記載されている範囲から出題する方針を採用したことで、合格率は前回の1.1%から7.2%へと増加し、平均点は前回の44点から49点へと上昇した。公式参考書『超・宇宙を解く―現代天文学演習』は、大学理工学部や教育系大学の理系コースにおける天文学の授業で教科書として採用実績のある書籍であり、読者を選ぶ書籍であることは言を俟たない。しかしこの公式参考書をしっかりと読み込み、実際に手を動かして演習を行ってもらえば、現代の天文学について、非常に幅広く深い知識と理解が得られるはずである。本書を読みこなすのに不可欠な理数系の知見を身に着けるために、高校数学・物理の復習も必須であると考える。1級受験者の傾向をみてみると、例年、40代・50代が5割を占めている。男女比は男性が56%を占める。今回をふくめ過去3回開催した1級試験の合格者、すなわち「天文宇宙博士」の称号を有する方は、いまだ10名を超えていない。ちなみに、女性の「天文宇宙博士」がまだ誕生していないのは残念である。理系女子の活躍を期待したい。
正答率が20%を切ったのは以下の2問。【問16】宇宙エレベーターが登場するSF作品のうち最古のものを選ぶ問題(正答率12%)。【問18】過去の生物大量絶滅のうちもっとも多くの生物種が絶滅したものを選ぶ問題(正答率13.3%)。いずれも公式参考書からの出題ではない。正答率が90%を超えた問題は以下の2問。【問1】いくつかある超新星の方のうち銀河の距離指標に用いられるものを問う問題(正答率91.6%)。【問7】ギリシャ語のμの読みを問う問題(正答率92.8%)。

 

■総括
本天文宇宙検定は、天文や宇宙に関わるあらゆるテーマについて、知識や理解を深めていって欲しいというねらいがある。その過程で、天体の綺麗な画像を眺めたり、思わぬ意外な事実に驚いたり、計算がきちんと合って喜んだり、頭の中でカチリとピースが嵌って全体像が突然に理解できたり、さまざまな形でものごとを理解する楽しみをわかちあって欲しいと考えている。そのために、他の多くの検定とはやや異なり、たんに知識量と暗記力を問う問題だけではなく、図を読み解いたり、計算をしたり、さらには公式やグラフを導出するなど、宇宙について深い理解が必要な問題も出題される。とくに級が進むほど、そのような思考力が試される問題が増える傾向になっている。
天文学に限らないが、理系の学習では、テキストや文献を読むだけではなく、自分の手を動かすことが非常に重要である。具体的には、テキストや問題集に書いてある数値を、自分で実際に計算して確かめてみて欲しい。また数式なども可能なら自分で導いてみて欲しい。さらに、諸量の関係を表すグラフについても、自分で描けそうなものは実際にグラフ用紙に描いてみて欲しい。これらの手を動かす作業をするだけで、格段にものごとの理解が深まるはずである。そして、別の数値を自分で算出してみたり、新しい関係を導くことさえできるだろう。
どの級においても、テキストを理解し内容を把握することがまずは最初の目標ではあろうが、最終目標ではない。テキストを理解した、その先に、さらなる新しい宇宙と未知の世界が拡がっているのだ。学ぶことにゴールはないが、同時に、学びの愉しさにも終わりがないのである。

 

2014年12月吉日
天文宇宙検定委員会

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