全ての記事一覧
第15回試験問題について、いくつかのご指摘・ご質問を頂戴いたしました。ありがとうございます。
以下のとおり、回答申し上げます。
質問者からの文章は、一部を割愛させていただきました。ご了承ください。
■2級・問35
【問題】
次の4つの元素合成のうち、地球に存在する鉄より重い元素が合成された可能性のあるものはいくつあるか。
・ビッグバン時の元素合成
・星の内部での元素合成
・超新星爆発時の元素合成
・中性子星同士の合体時の元素合成
①1つ
②2つ
③3つ
④4つ
【正答】
②
【解説】
ビッグバン時の元素合成では、水素とヘリウム、およびわずかなリチウムしか合成できない。
星の内部では、鉄までの元素しか合成できない。
超新星爆発時には、その膨大なエネルギーにより、鉄より重い元素も合成できると考えられている。
また、中性子星同士の合体では、電気的な反発のない中性子を素早く捕獲するというRプロセスにより、金やプラチナなどのr過程元素がつくられ、宇宙空間にまき散らされた可能性が高いことが明らかになってきた。
したがって、この4つの元素合成のうち鉄より重い元素を合成できるのは、超新星爆発時と中性子星同士の合体のときの2つとなり、②が正答となる。
【質問】
・選択肢③が正答ではないか。
地球に存在する鉄より重い元素が合成された可能性のあるもの」との問いに対して、解答と解説では「超新星爆発時の元素合成」と「中性子星同士の合体時の元素合成」の2つのみが可能性があるものとして選択肢②を正解とされていました。
津村先生の解説動画も拝聴しましたが、これには首を傾げざるを得ません。
候補とされた元素合成のうち「ビッグバン時の元素合成」は論外として、問題は「星の内部での元素合成」です。
この文言を見る限り、核融合による元素合成と中性子捕獲による元素合成の両方を当然に含むものと考えます。確かに解説動画でも説明された通り、核融合では鉄より重い元素は合成されません(されてもすぐ鉄になる)。
しかし、中性子捕獲による元素合成のうち「s過程」と呼ばれるものであれば、鉄よりも重い元素は合成されます。s過程で合成された元素はAGB星中心核の外殻で起こるヘリウム殻フラッシュで外層へ運ばれ、外層の水素とともに星間空間へと放出され、また新たな恒星の材料とされます(「s過程」日本天文学会編『天文学辞典』)。
そして、太陽系にあるs過程の核種の生成には、漸近巨星分枝星(AGB星)内部で起こるs過程が主に寄与しているとされています(望月優子・佐藤勝彦「元素の起源」、シリーズ現代の天文学 第1巻『人類の住む宇宙』第2版 3章7節)。
これらを総合すると、問題文にある「地球に存在する鉄より重い元素が合成された可能性のあるもの」という条件に「星の内部での元素合成」も合致するものと思われます。
【回答】
ご質問をいただき、ありがとうございます。
ご指摘のとおり、星の内部でも鉄より重い元素が作られることがあります。
「星の中の核融合反応では鉄までしか作られず、鉄より重い元素は作られない」というのは正しいのですが、星の中の核融合反応ではなくて、中性子捕獲反応によって、鉄よりも重い元素が作られます。
中性子捕獲反応には、s過程(スロープロセス)というゆっくりとしたプロセスと、r過程(ラピッドプロセス)という早いプロセスの2つの反応があります。解説や2級解説動画で紹介した超新星爆発や中性子星連星の合体では、r過程が起こっていますが、s過程の方は星の中で起こります。
ご指摘にあるとおり、実際に宇宙で起こっている反応では鉄より重い元素が星の内部でも一部作られるパスは存在する事実がありますので、星の中でも、鉄よりも重い元素は、作られうるということで、本問の正答は「③3つ」とするのが正しいといえます。
しかし、ご質問者から頂戴した質問内容は、高校地学レベルを基準とする2級の水準と比して、高度で発展的な内容であり、2級公式テキストでは言及しておりません。試験は、公式テキストを出題範囲と指定していますので、2級公式テキストに書かれてあることだけを理解して試験にのぞむと、正答は「②2つ」となります。
検定委員会にて慎重に審議しました結果、本試験では、「②2つ」と「③3つ」の2つを正答とすることといたします。
ご指摘いただきました内容は、テキスト改訂時の参考とさせていただきます。なお、解答速報・2級解説動画に反映をして説明を補足いたしました。
貴重なご意見をありがとうございました。
■2級・問40
【問題】
生物種の5回の大量絶滅を表す次の図で、O/S境界はどれか。
①A
②B
③C
④D
【正答】
①
【解説】
O/S境界はオルドビス紀とシルル紀の境界。
なお、BはF/F境界、CはP/T境界、DはT/J境界、EはK/Pg境界と呼ばれる。
例外もあるが、おおむね、境界を挟む“紀”の頭文字が使われている。
【質問】
解答は①ですが、そもそもこの問題は理解できないところがあります。
問題にはA,B,C,D,Eとありますが、選択肢には①A②B③C④Dとあります。
問題にEは必要ないと思います。
問題として成立していないのではないでしょうか?
【回答】
ご質問をいただき、ありがとうございます。
問題文に「生物種の5回の大量絶滅を表す次の図で」とございますとおり、図中のA、B、C、D、Eが示しているのは、カンブリア紀以降に5回起きた生物種の大量絶滅の時期です。
当試験は四択ですので、正答ではないEのK/Pg境界は選択肢から外しておりますが、
5回のうちの1回のため図には残しました。
■2級・問57
【問題】
地球誕生時から現在までの地球大気について述べた文のうち、間違っているものはどれか。
①地球が誕生したとき、地球大気のほとんどは二酸化炭素であった
②窒素は、地球誕生時から現在までほぼ同じ量を保っている
③地球大気の酸素は、光合成生物によってつくられた
④光合成生物によってつくられた酸素は、ただちに大気中に拡散して酸素の量を増やしていった
【正答】
④
【解説】
生命は海中で発生して進化していったが、太陽の強烈な紫外線のため、地上では生息できなかった。この生物の中から光合成生物が発生し、酸素を海中に放出するようになった。しかし、放出された酸素は、海中の鉄イオンと反応して酸化鉄となり、大気中にはなかなか拡散できなかった。大気中に拡散するようになったのは、海中の鉄イオンがなくなってからであり、光合成生物が出現してからおよそ10億年後のことである。したがって、「ただちに大気中に拡散して」という記述の部分が誤りで、④が正答となる。①~③は正しい記述である。
なお、地球誕生時に大量にあった二酸化炭素は、地球に海が誕生し、海中に溶けた二酸化炭素が海中のカルシウムイオンと反応して炭酸カルシウムになり、海底に沈殿していった。そのため、大気中の二酸化炭素は徐々に減少していった。海底に沈殿した炭酸カルシウムは、堆積して石灰岩に変わっていった。
【質問】
問57の解答は④になっていますが。②も間違っているのではないでしょうか。
②窒素は、地球誕生時から現在まで同じ量を保っているとありますが、始生代(約35億年頃)は減少しています。この減少はほぼ同じ量を保っているとは理解しにくいです。
【回答】
ご質問をいただき、ありがとうございます。
2級公式テキストp.145 図表10-10 の縦軸は対数値なので、35億年ごろにおける窒素分圧の減少は見かけよりは大きいですが、それでも、2倍程度の変化に留まっており、桁で変化しているわけではありません。また、このような測定値や推測値には常に不確定性を含んでいます。不確定性の評価の観点も含め、窒素分圧は、“ほぼ同じ”とか“あまり変わっていない”などと表現して差し支えないかと思います。それに対して、この図に示されている他の元素(二酸化炭素、酸素、アルゴン)は、それぞれ桁違いに変化していますので、それらの元素の変化に比べ、窒素はほぼ一定としても差支えはないと思います。
2023年11月20日に開催した第14回試験について、合格率・平均点などの受験者データと、検定委員会による講評をアップしました。
「第14回天文宇宙検定解答速報」と合わせてご覧ください。(第14回解答速報の公開は終了しました)
各級合格率・最高得点・平均点
試験問題の難易度
1)正答率の高かった問題
最も正答率が高かった(やさしかった)問題を1位として、各級の上位10位までを並べた。
「問No.」は、試験出題番号を表す。詳細は後述。
2)正答率の低かった問題
最も正答率が低かった(難しかった)問題を最下位に、各級の正答率が低い順に10位までを並べた。
「問No.」は、試験出題番号。
ちなみに、1・4級の出題数は全40問、2・3級は全60問が出題された。詳細は後述。
4級
合格率が80%を切ったのは第11回以来のこと。近年、受験者の低年齢化が進んでおり、10歳未満の受験者が4級全体の23.8%を占めた影響が否めない。年代別の合格率をみると10歳未満は63.5%と全体の中では低調であるが、4級は受験対象年齢を5年生(11歳)以上と想定しているので、この数字はむしろ高いといえるかもしれない。
点数分布をみるとピークは70~79点が一番多く、4級の全受験者の28.5%。合格点に及ばなかった50点台が全体で15.1%であった。
4級試験で正答率が9割を超えた問題は9問あった。なかでも正答率の高かった問題から紹介しよう。いずれも天体の分類や観測の際の注意事項など基本的な知識を問う問題である。出題範囲である4級テキストを精読していれば正答を選ぶのは容易だろう。
【問38】(正答率98.1%)下の写真(太陽の画像)のように、太陽の表面にしみのような模様が見みえることがある。これは何か。
【問21】(正答率97.9%)天体望遠鏡を買ってもらったので、さっそくいろいろなものを見たいと思う。しかし、そのままで見てはいけないものが1つある。それはどれか。
【問1】(正答率97.5%)地球は北極と南極を通る直線を軸にして1日1回転している。この回転のことを何というか。
【問18】(正答率95.2%)次の惑星のうち、環がないものはどれか。
【問15】(正答率92.6%)宇宙にはいろいろな種類の天体がある。地球のまわりを回っている月は何という種類の天体か。
【問5】(正答率92.4%)次のうち、一番明るい星はどれか。選択肢は、①0等星、②3等星、 ③-3等星、 ④-1等星。
【問10】(正答率92.1%)オーロラについて正しいものはどれか。
【問17】(正答率92.1%)日本の学校が夏休みになって、オーストラリアへ旅行に行くことになった。そのときのオーストラリアの季節はどれか。
【問8】(正答率90.1%)ほうき星とも呼ばれるものはどれか。
正答率の低い問題は順に以下のとおり。どれも知識に対して、いまひとつ深い理解が求められる。
【問32】(正答率32.9%)太陽系で一番ゆっくり自転している惑星はどれか。選択肢は、①水星、②金星、③木星、④土星。太陽系惑星のなかで、金星の自転が他の惑星とは逆向きで、1回転に243日かかるという特徴に気づけるかどうかがポイント。
【問12】(正答率38.4%)次の図の星のならびは、12個ある誕生星座のうちの1つである。なんという星座か。やぎ座は秋の星座。2等星以上の明るい星がなくあまりなじみがなかったかもしれない。
【問37】(正答率40.1%)昔の人びとが「いざよい」の月と呼んだ月はどれか。日本人が月を呼びならわすさまざまな名前は、それぞれの由来がある。問題の「いざよい」とは「十六夜」と書く。「いざよい」とは、ためらいという意味であり、日没とともに昇ってくる満月(十五夜)の翌日の月、十六夜を、ためらいがちに昇る月ということから「いざよい」と呼ぶようになったと言われる。現代人からすると、みやびやかな響きを感じさせる、覚えておきたい言葉である。
【問22】(正答率40.7%)次のうち、地上からの高度が低い順に正しくならんでいるものはどれか。正しい選択肢の並び順は、高度の低い方から、オゾン層、流れ星、オーロラ、国際宇宙ステーションの順。どこからが宇宙なのかを考えたとき、どの高度に何があるのかは知っておきたい知識であり、4級では定番ともいえる問題であるが、正答率は4割にとどまった。
3級
3級は中学で学ぶ天文学の知識を基準としている。受験者層は、前回同様、10代・20代が多かった(3級全受験者の53.6%)。10歳未満男性の合格率は90.0%と高かった。全体の得点分布は60~69点台にピークがあった(26.7%)。3級全体の合格率は77.4%と8割には届かなかったものの、59点以下は22%で、30歳以上では合格率は80%を超えている。
正答率が9割を超えた問題は、次の7問。
【問22】(正答率94.5%)図は天の川銀河の側面を表している。太陽系はどこか。天の川銀河のすがたも少しづつ明らかになってきており、新しい研究成果にも期待が膨らむ昨今だ。
【問20】(正答率92.4%)史上初めて、人類を月に着陸させることに成功した宇宙船はどれか。選択肢が、①ルナ9号、②アポロ11号、③ボストーク1号、④ひてん、と取捨選択しやすかったことが幸いしたようだ。
【問9】(正答率91.9%)木星を表す惑星記号はどれか。惑星記号は定番問題のひとつ。由来をおさえると覚えやすい。
【問27】(正答率91.7%)冬の代表的な星座であるオリオン座の一晩の動きを正しく表しているのはどれか。一晩で何度、どの方角へ、どう動くかはしっかり理解しておこう。
【問41】(正答率91.7%)中国由来の呼び方で、太陽に対して月のことを何というか。選択肢は、①太白、②太陰、③太極、④太衝。日本の太古の宇宙観は、中国伝来の宇宙観が深く影響している。
【問12】(正答率91.2%)東京で月が下図のように見えた。同じときにオーストラリアのシドニーで月はどう見えるか。なお、各図の上方向が天頂方向、下方向が地平線方向とする。これも定番問題。南半球では月の見え方が上下左右逆で、左右逆方向から欠ける。
【問37】(正答率90.3%)次の惑星についての記述のうち、間違っているものはどれか。①海王星の大部分は氷でできている②火星は木星型惑星に分類される③金星のマントルは高温の岩石である④土星は木星型惑星に分類される。太陽系の惑星の構造「地球型惑星」「木星型惑星」「天王星型惑星」の種別と特徴も頻出問題のひとつである。
正答率が3割を切ったの問題は以下の5問。
【問50】(正答率17.2%)星の天球上の位置を決める座標系のうち、多くの座標系は星とともに日周運動をするが、次のうち日周運動をしない座標系はどれか。①地平座標、②赤道座標、③黄道座標、④銀河座標。座標系についての問題は毎回正答率が低いが、各々が何を基準として、何を観測するのに適しているかを区別して覚えておけば、理解は深まる。
【問18】(正答率19.8%)次の天体の中で、名の由来であるギリシャ神話の神が互いに兄弟ではないものはどれか。①木星、②天王星、③海王星、④冥王星。ギリシャ神話の本はたくさん出版されているので、読んでおくと理解が深まるだろう。ちなみに、オリオンはポセイドンの子である。
【問7】(正答率20.1%)現在のOctober(10月)は、古代ローマ時代は8番目の月だったが、10月になった理由は何か。暦と天文学も切り離せない問題だ。権力者カエサルによって月の名前がずれて今に至るという、理不尽なお話である。
【問60】(正答率24.6%)図は宇宙エレベーターを表したものである。地球の中心から静止軌道ステーションまでの距離いくらか。静止軌道といえば赤道上空の高度約3万6000㎞の軌道であるが、この問題は地球の中心からの距離を問うていることを忘れてはいけない。
【問19】(正答率24.8%)2014年に公開されたアメリカのSF映画で、現実では直接検出に成功したことが2016年に発表された「重力波」を使った信号伝達が出てくる作品はどれか。宇宙をテーマにした作品も公式テキストでいくつか紹介されている。宇宙の知識があって鑑賞すれば、楽しみ方も変わってくるだろう。
■2級
今回の2級合格率は44.6%、平均点は64.9点であった。過去14回の2級の平均点は62.7点なので、例年と大きくは違わない。年代別に合格率をみると60・70代以上でそれぞれ60%を超えている。最も受験者が多かったのは10代男性。次いで、20代男性、50代男性と続く。2級受験者は例年6割が男性である点も、今試験では変わりがなかった。
正答率が8割を超えた問題は13問あったが、なかでも正答率の高かった問題は以下のとおり。
【問4】(正答率92.5%)次のHR図で白色矮星の位置として当てはまるものはどれか。ヘルツシュプルング・ラッセル図についての問題は2級では定番であり、図中の恒星のグループについて理解することは基本ともいえる。
【問40】(正答率91.8%)スペースコロニーは対称軸のまわりに回転させるようになっている。この回転で、何を得ようとしているか。①大気、②水、③日照、④擬似重力。スペースコロニーの疑似重力発生のしくみは、ガンダムなどのアニメで知られた事案ということもあり、正答率が高かった。
【問2】(正答率87.8%)太陽黒点について正しく述べたものはどれか。①大きいものは地球の数倍の大きさがある、②半暗部は比較的小さな黒点の周囲にしか見られない、③黒点は単独で現れるものがほとんどである、④黒点は周囲より磁場が弱い領域である。正答は①。太陽直径は地球直径の約109倍もあり、その表面の黒点も巨大である。
【問1】(正答率85.8%)宇宙の歴史における出来事を、古い順に並べたものはどれか。正答は、インフレーションの開始→宇宙の晴れ上がり→生命が発生する→ブラックホールの蒸発。宇宙開闢から消滅までに辿る道筋については、2級でよく問われる問題である。
正答率が低かった問題は以下のとおり。
【問48】(正答率22.1%)写真は8件の客星を記した古記録だが、どこが所蔵しているか。選択肢は、①宮内庁、②西園寺家、③冷泉家、④近衛家。正答は③冷泉家。世界的にみても貴重な文化的資料である。
【問33】(正答率25.8%)粒子の質量をm、回転半径をr、回転速度をvとすると、角運動量Lはどう表せるか。ケプラーの法則も2級では頻出問題のひとつであるが、ニュートンの万有引力発見につながる重要な法則なので、ケプラーの法則の意味はしっかり覚えておいてほしい。
【問52】(正答率30.6%)最大級の太陽フレアの1000倍大きなスーパーフレアが太陽で起こる可能性はどれくらいか。選択肢は①5000年に1回、②50万年に1回、③5000万年に1回、④50億年に1回。地球に壊滅的な影響を与えるといわれるスーパーフレアについては、その発生頻度が5000年に1回程度であろうといわれている。
【問31】(正答率31.2%)マルチバースの考え方において、インフレーション宇宙のレベルはいくつか。4つのタイプがあるといわれる多宇宙・マルチバースについては、どこかSFめいていて興味深い話題であるが、1章コラムからの出題ということもあって、正答率は3割にとどまった。
最後に、【問20】アミノ酸や核酸などの有機分子には、D型とL型がある。地球の生体はL型のアミノ酸だけを使っていることについて述べた文で間違っているものを選ぶ問題については、生命科学分野の学識経験者を交えて天文宇宙検定委員会で議論を重ねた結果、最新の研究知見では、生体内のD型アミノ酸の存在は広く認知されている事実であり、その機能について研究が進められているのが現状であるとの見解に達し、選択肢として挙げた「②生体はD型のアミノ酸を吸収することはできない」を正しいと断じることが困難であると判断するに至った。そのため、当該問題については、①と②を正答とした。受験された皆様には、あらためてお詫びを申し上げます。
■1級・準1級
今回の1級合格率は0.7%。最高得点は74点だった。平均点は43.4点で、過去平均47.6点を下回った。男女比でみると男性が85.8%と多かった。年代別には50代以上で5割を超えている。得点のピークは40~49点台が33.3%と最も多かった。1級試験問題の出題分野は、天文学のなかでも観測・理論についての知識を問う問題が6~7割ほどを占めており、残りは時事問題や宇宙開発・文学などの関連分野から出題される。テキストがないかわりに、参考書『極・宇宙を解く』から試験問題の4割程度が出題されているが、広い知見を問われる。なお、数題ほど出題される時事問題対策のため、近年の天文時事に目を通しておいてほしい。1級試験で60点以上で認定される準1級は、1級受験者のうち9.2%であった。
正答率が高かった問題は順に以下のとおり。参考書『極・宇宙を解く』からの出題は、やはり正答率が高かった。
【問38】(正答率83.0%)単位記号Cはどう読むか。①カンデラ②クーロン③ケルビン④セルシウス
【問18】(正答率75.9%)図は太陽のまわりの地球軌道を描いたものである。JWSTはこの図ではどこに設置されているか。第13回に引き続き、JWSTについての問題が出題された。
【問35】(正答率68.1%)ギリシャ文字の大文字と小文字の組み合わせで、間違っているのはどれか。ギリシャ文字については、『2・3級公式テキスト』・『極・宇宙を解く』にも記載がある。確認しておこう。
【問16】(正答率66.7%)太陽の表面温度はおよそ6000 Kで、そのスペクトル分布は波長がおよそ480 nmのところにピークをもつ。では、表面温度が2万4000 Kの恒星のスペクトル分布のピークの波長はどれくらいか。①240 nm ②160 nm ③120 nm ④80 nm(『極・宇宙を解く』(8節)からの出題)。
【問30】(正答率66.7%)天球全体は何srぐらいになるか。①約3 sr ②約13 sr ③約23 sr ④約33 sr(『極・宇宙を解く』(1節)からの出題)。
正答率が低かった問題は次が挙げられる。
【問2】(正答率7.1%)アメリカの学術団体は、今後10年間の天文学の将来計画の重要性を定めるための指針としてAstro2020というレポートを2021年11月に発表した。その中で提唱された3つの重要度の高い柱(priority area)に該当しないものはどれか。③銀河臣下と生態系として理解する研究を選んでしまった方が約7割であった。
【問40】(正答率12.1%)星座の「や座」(Sagitta)の略号として正しいものはどれか。①Sag ②Sat ③Sge ④Sgt
【問13】(正答率13.5%)持続時間が極めて短い電波現象が、2007年にオーストラリアの電波望遠鏡によってとらえられた。この電波現象によく似た波長の偽信号が発見されたが、その偽信号につけられた名称は何か。①LGM ②セイレーン③ペリュトン④ディンゴ。正答は③。
【問32】(正答率14.9%)海王星が発見されたのは1846年だが、それ以前に図らずも海王星の観測記録を残していた人物は誰か。①ティコ・ブラーエ②ガリレオ・ガリレイ③ユルバン・ルヴェリエ④ジョン・クーチ・アダムズ。③を選んでしまった方が約4割いたが、ルヴェリエは未知の惑星(海王星)の位置を予測したのみであって、観測したわけではない。
■総括
天文宇宙検定の公式テキストは2年ごとに改訂されているが、第14回検定時のテキストはすでに7回の改訂を経ており、一般的なテキストであれば完成度は十分に高くなって、改訂箇所など見あたらなくなるのが普通である。しかし天文分野に関しては別で、たった2年の間にも新しい発見や研究の進展があるため、テキストも改訂ごとに新しい内容が盛り込まれている。と同時に、新しい発見で間違いがわかった内容はもちろん、古びた内容など、同じ分量だけが削除されている。もし、改訂前の公式テキストや、2023年春に改訂された2023・2024年版などをお持ちの場合は、公式テキストを読み比べてみるのも面白いと思う。新しい知見をどんどん学ぶことも楽しいし重要なことだが、新しい観測などによって科学的知識がつぎつぎに塗り替えられていくことをリアルタイムで体験することも大変に意義があり、科学の有り様がよくわかり身に付くものだ。
さて、13回目に引き続き、2022年度の2回目の通算第14回目の検定試験だったが、受検者数や合格率など、全体的な傾向はさほど大きく変わっていない。しかしまさに上に書いたような実例が、2級の問20(D型とL型のアミノ酸)で起こった。出題委員と検定委員が不勉強であった点は申し訳ないが、このような確定していると思っていた“科学的事実”でさえ、ちょっと見過ごしている間に塗り替えられているのだから、科学(天文)はダイナミックに変化することがよくわかる。出題者や検定委員会のメンバーもまた、受検者や読者のみなさんとともに学んでいるのである。
近々、新しく改訂された2023・2024年版の公式テキストを用いて、第15回天文宇宙検定が実施されるが、実はD型L型問題は公式テキストでは十分に反映されていない。出版の前のタイムラグがあるためだが、こういうこともあるのはご寛恕いただきたい。それよりも戦々恐々なのは、新宇宙望遠鏡JWSTなどによる新しい結果がどんどん出始めていることだ。ALMA望遠鏡も活躍中だし、LIGO/VIRGO/KAGURAによって合体ブラックホールの数もどんどん増えている。出版前からテキストが古くなりそうである(笑)。また宇宙開発分野でも、試験機の打ち上げ自体は残念な結果に終わったとはいえ、次期主力ロケットH3の開発が進んでいる。さらに後一歩のところで月面着陸まではいかなかったようだが、日本の民間企業が月着陸に挑む時代になった。天文観測や宇宙開発ではしばしば欧米の成果に目が向きがちだが、実は日本も結構すごいのだ。日本人としては誇りをもちたいところだ。なでしこジャパンとか侍ジャパンみたいに、天翔るジャパンとか何か標語でも立てて、日本の宇宙開発を応援したいですね。
2023年4月吉日
天文宇宙検定委員会
あとひと月ほどで、第15回の検定試験が開催されます。
試験対策は進んでいらっしゃるでしょうか?
テキストの内容については、誤植の指摘と併せて、
ご質問もいくつか頂戴しています。
ありがとうございます。
先日、4級テキストと問題集の内容について、電話でご質問をいただきました。
テキストの編著者にお尋ねして、ご回答を差し上げる約束でしたが、
当方の控えた電話番号でご連絡がつきませんでしたので、
以下に、ご回答申し上げます。ご本人様にご覧いただけるとよいのですが…。
【質問】
*******************************
4級テキスト・p41・上から2~3行目に、
「太陽は巨大なので中心の熱が表面に伝わるまで1000万年かかる。」
とあるが、4級問題集p52・Q16には、
「太陽の中心で発生した熱が太陽の表面まで伝わるには、
どのくらいかかるか。正答:100万年」となっています。
正しいのはどちらですか?
********************************
【編著者の回答】
たいへんよく勉強されていらっしゃいますね。
ご質問に回答申し上げます。
太陽の熱と光は、中心部からは瞬時に出て来られません。
太陽の中心で発生した熱や光は、パンパンにつまった太陽の中を
行きつ戻りつし合いしながら、表面に出てきます。
そして、その計算は見えない太陽の中がどうなっているのかを考えながら行います。
これは難しく、考え方によって10倍もの大きな差がでてしまいます。
100万年は間違いであるとも言えないのですが、
最近は1000万年くらいが良さそうとされているのです。
1000万年もかかるのはびっくりですよね。
毎日見えている太陽のことも意外と完全にはわかっていないのは、
おもしろいことと思いませんか?
公式テキストと問題集の記述に混乱が生じた原因は、
「100万年」と記載していた『4級・問題集』が2022年7月発売で、
その翌年の2023年3月に『4級公式テキスト』を発売する際、
「100万年」を「1000万年」に修正したのですが、
問題集に正誤表を入れるべきところを、見落としていました。
混乱をさせてしまい、申し訳ございませんでした。
ご指摘をいただきまして、誠にありがとうございました。
作成者側も間違いや見落としがあるので、
また何か気づいた点があれば、遠慮なく質問していただけると嬉しいです。
第14回試験問題について、いくつかのご指摘・ご質問を頂戴いたしました。ありがとうございます。
以下のとおり、回答申し上げます。
質問者からの文章は、一部を割愛させていただきました。ご了承ください。
なお、2級問8につきましては、正答が導き出せないことから、当該問題につきましては受験者全員を正解といたします。
また、問20の選択肢②につきましては、新しい知見が発表されてきていることを鑑み、
②を選択した場合も正答とします。
受験者の皆さまにはご迷惑をおかけいたしましたことを、深くお詫び申し上げます。
■2級・問8
【問題】
十干十二支(じっかんじゅうにし)について正しく述べたものはどれか。
①暦が50年で一巡りすることを還暦という
②十干十二支の組み合わせでは、60以上の数を表すことはできない
③十二支に動物名を当てているのは日本だけである
④真夜中を「ねの刻」というが、十二支とは関係がない
【正答】
②
【解説】
十干十二支で順序数をつくる場合、十干と十二支を「甲子」、「乙丑」、「丙寅」のように、それぞれ最初から1つずつ順に組み合わせていく。そのため組み合わせは60通りしかなく、60以上の数を表すことはできない。
また、60歳になると生まれた年の十干十二支に還るため、60歳になることを還暦という。
干支を使用しているベトナムなどでも動物名の振り当てはあるが、猫や山羊、豚など日本と異なる動物名が出てくる。
【質問】
・選択肢②は、60以上だと60を含むので61以上の数を表すことができない、でなければおかしくありませんか?
・解答は②となっていましたかが、60以上には60も含むのではないでしょうか?
【回答】
ご指摘いただいたとおり、「60以上」は間違いで、正しくは「61以上の数を表すことはできない」となります。
正答がない問題となりますため、全員正解といたします。
■2級・問20
【問題】
アミノ酸や核酸などの有機分子には、D型とL型がある。地球の生体はL型のアミノ酸だけを使っている。これについて述べた文で間違っているものはどれか。
①化学合成するとL型の方がD型より倍以上生成されやすい
②生体はD型のアミノ酸を吸収することはできない
③生体はD型の核酸のみを使っている
④生体の核酸は片方の型だけが使われることで二重らせん構造がとれる
【正答】
①
【解説】
アミノ酸や核酸などの有機分子を化学合成すると、L型もD型も等量が生成される。L型とD型はそれぞれ同じ型のものが結合して、より複雑で巨大なタンパク質やDNAを作っている。なので、L型のアミノ酸でできた生体は、L型のアミノ酸のみが使用できる。D型が来ても使えない、すなわち吸収できないのである。
ただ、そうなら、D型のアミノ酸ばかりの生体が半分あっても不思議ではないが、それはほとんどない。その理由として考えられているのが、アミノ酸は特定の円偏光した光の元では、片方の型ばかりが生成される性質があり、そういう環境があったことは考えられる。ただ、地球上ではそれは考えにくいので、宇宙空間でそうした環境があり、そこでできたL型アミノ酸が降ってきて、地球に生体を作ったという説もある。
【質問】
正解は①となっておりましたが、②の「生体はD型のアミノ酸を吸収することはできない」の記載も実際は間違っていて、生体はD型アミノ酸を吸収できるとの研究の事実が多くありますので、②も正解にすべきと考えます。この根拠については、実際に生体はD型アミノ酸を吸収しているとの研究が数多くございます。
【回答】
当該問題については、生命科学分野の学識経験者を交えて天文宇宙検定委員会で議論を重ねました。結果、最新の研究知見では、生体内のD型アミノ酸の存在は広く認知されている事実であり、その機能について研究が進められているのが現状であるとの見解に達しました。よって、選択肢として挙げた「②生体はD型のアミノ酸を吸収することはできない」を正しいと断じることが困難であると判断し、当該問題については、①と②を正答といたします。
ご指摘いただいた内容については、次回の改訂時に参考にさせていただきたく思います。
■2級・問39
【問題】
宇宙線についての記述のうち、間違っているものはどれか。
①宇宙空間を飛び交う高エネルギーの電磁波である
②超新星残骸や銀河中心、太陽などから発せられている
③地上での被曝線量(自然放射線量)は、1年間で約2.4ミリシーベルトである
④国際宇宙ステーションに滞在中の宇宙飛行士は、1日あたり平均して地上での約半年分を被曝する
【正答】
①
【解説】
宇宙線は宇宙空間を飛び交う陽子やアルファ粒子、リチウム、ベリリウムといった高エネルギーの粒子線である。
【質問】
正解は①となっておりましたが、③の「地上での被爆線量(自然放射線量)は、1年間で約2.4ミリシーベルトである」の記載は間違っているとして正解にすべきと考えます。日本国内での被爆線量(自然放射線量)は1年間で約2.1ミリシーベルトと環境省の下記WEBサイトの資料で記載されております。
①の「宇宙空間を飛び交う高エネルギーの電磁波である」が間違いで正解となっておりますが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の資料によれば、「実際、宇宙放射線(もしくは、宇宙線)と呼ばれる。その中には地上では通常存在しない種類の放射線も多く含まれる。専門的に詳述すれば、宇宙放射線は宇宙環境に存在する電離放射線であり、X 線やガンマ線等の電磁波の他、陽子、中性子、電子、アルファ線、重粒子等の粒子線からなる」と記載されております。宇宙線にはX線、ガンマ線等の電磁波が含まれるとなっておりますので、①は正解ではないと考えます。
【回答】
(1)選択肢③について
公式テキスト(P.132)掲載の「地上での被曝線量(自然放射線量)」は、「約2.4ミリシーベルト」と明示しておりますとおり概数であり、環境省の提示する数値に明瞭な差異があるものではございません。したがって③を間違い(正答)とはできません。
(2)宇宙線について
公式テキストでは、「宇宙線は、宇宙空間を飛び交う高エネルギーの粒子線のこと(P.132)」と解説しています。ご提示いただいたJAXAの宇宙線に関する見解にもあるとおり、宇宙線とは、X 線やガンマ線等の電磁波の他、陽子、中性子、電子、アルファ線、重粒子等の粒子線からなるものととらえれば、選択肢「①宇宙空間を飛び交う高エネルギーの電磁波である」は、誤った記述と解することができますので、正答は①のみといたします。
『天文宇宙検定公式テキスト3級≪2021-2022年版≫』の
2章p32の記述内容について、ご質問をいただきました。
以下に回答いたします。
【質問】
3級公式テキストP32の平均太陽時と恒星時の変換のところですが、
「回帰年= 365.2422 平均太陽日
= 366.2422 恒星日
になる。
上記のことから、ある時間間隔を恒星時で測った値と平均太陽時で測った値の比1 + μは、
1 + μ= 1 平均太陽日/ 1 恒星日
= 366.2422 / 365.2422
= 1.0027379」
下から2行目で、平均太陽時と恒星日がなぜ逆になるのかわかりません。
【回答】
テキストの式ですが、1式と2式の間が省略されているのでわかりにくくなっていました。
内容は、恒星時のほうが太陽時より、1日約4分ほど進みが早いということです。
1+μ=1平均太陽日/1恒星日・・・・・・1式
=366,2422/365.2422・・・・・・2式
=1.0027379・・・・・・・・・・3式
とテキストで表現されていますが、
1式と2式の間が省略されていてわかりにくくなっていました。
テキストにある上記の式の上に、以下の式が記述されています。
1回帰年=365.2422平均太陽日=366.2422恒星日 ……………… (1)
するとここから
1平均太陽日=(366.2422/365.2422)恒星日 ……………… (2)
と表すことができます。
つまり、(2)から1平均太陽日=(366.2422/365.2422)恒星日ですので
これを1式に入れると
=(366.2422/365.2422)恒星日/ 1恒星日 (3)
この両辺を1恒星日で割ると
=366.2422/365.2422
=1.002739
となります。
(3)が省略されていたので、数値が逆ではないかと思われたかと思います。
1回帰年は,地球が太陽の周りを1周する時間で,1回帰年=365.2422太陽日 となります。
暦の1年には端数はないので,暦では,およそ4年に1回(正確には,400年に97回)うるう日を入れて,年と日のずれを調整しています。
次に,1恒星日(恒星が南中して,次に南中するまでの時間)は,
1平均太陽日(太陽が)よりおよそ4分短い)≒23時間56分(平均太陽時で測って)です。
およそ4分短いのは,地球の公転運動のため,
平均太陽が,地球が自転している間に黄道をおよそ1°ほど東に移動するため,
1平均太陽日のほうが1恒星日よりおよそ4分ほど長くなります。
これが,1年間(1回帰年の間)続くと,
太陽に対して365.2422回回転することになりますが,
恒星に対しては,公転により1回転分が加わり,
(365.2422回+公転による1回分)=366.2422回回転することになります。
したがって,1回帰年=366.2422恒星日となります。
恒星時の方が早く進みます
(太陽時に比べて1日におよそ4分;より正確にはおよそ3分56秒),
また、その進む割合を 1+μ で表します。
具体的なμの計算方法は,1日(24時間)あたりおよそ 3分56秒 進むので,
24時間3分56秒(太陽時)を24時間(1太陽時)で割ることで計算できること
(ここでは太陽時で表していることになりますが)