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〇受験者データ
○点数分布・受験者年齢構成・正答率
各級受験者の点数分布表、受験者の年齢構成表とあわせ、各級の設問について正答率の高かった問題、低かった問題についてふりかえります。
点数分布表の太線は合格点を表します(1級試験70点以上で1級合格、60~69点で準1級合格。2級は70点以上、3・4級は60点以上で合格)。
正答率については、解答速報とあわせてごらんください。
〇4級
■正答率の高かった問題
【問12】公式の星座の数を問う問題(94.4%)。88個の星座は、およそ100年前の1922年に国際天文学連合によって決められた。その中に、ねこ座や北斗七星はふくまれなかった。
【問28】自分の体を使って星の高さを図る方法に関する問題(90.8%)。まっすぐうでをつきだしたときのにぎりこぶし1個分は約10度。他にも指や手のひらで、およその角度がつかめる。覚えておくと人に星や星座の位置を教えるときに便利だ。
【問8】地球からもっとも遠い天体を選ぶ問題(90.6%)。選択肢4つの中でアンドロメダ銀河だけが天の川銀河の外にある天体で、250万光年かなたにある。
【問18】太陽系惑星の直径の大きさ順を問う問題(87.5%)。選択肢の中では、「水星は金星よりも小さい」がゆいいつ正しい。ちなみに、海王星は天王星よりわずかに小さい。
【問4】写真からガリレオ衛星でない天体を選ぶ問題(87.2%)。イダはガリレオ衛星ではなく、火星と木星の公転軌道の間にある小惑星帯に属する小惑星。小惑星でありながらもそのまわりを回る衛星(ダクティル)を持っている。
■正答率の低かった問題
【問33】春のダイヤモンドを形づくる星をたずねる問題(23.6%)。春の大三角は、アークトゥルス、スピカ、デネボラで形づくられる。ここにりょうけん座のコル・カロリを加えて春のダイヤモンドと呼ぶ。夏の大三角、秋の四辺形、冬の大六角(ダイヤモンド)とあわせて覚えておくと、星や星座を探しやすくなるのでおすすめだ。
【問27】ブラックホールの画像を撮った望遠鏡を選ぶ問題(23.6%)。イベント・ホライズン・テレスコープが史上初めてブラックホールの撮影に成功したのは2019年。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が高精細画像を公開したのは2022年。両者を混同してしまったようで、正答率が低かった。
【問13】銀河の写真の中からりょうけん座M51を選ぶ問題(30.8%)。りょうけん座M51は、子持ち銀河と呼ばれる渦巻銀河である。ひしゃくの形をした北斗七星の柄の先っぽあたりにある銀河で、双眼鏡や天体望遠鏡でなら見ることができる天体だ。
【問14】選択肢から双眼鏡で観察するのに向いていない天体を選ぶ問題(33.6%)。土星の環や木星の縞模様を見るには、天体望遠鏡がふさわしい。ちなみに、ガリレオが自作の望遠鏡で土星を見たときには、当時の望遠鏡の性能の低さから、環とはわからずに「土星の耳」と記録したという。
【問19】はくちょう座の星座線のイラストからアルビレオを選ぶ問題(35.6%)。アルビレオは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にも登場するオレンジと青白い星からなる色の対比が美しい二重星。はくちょう座のくちばしの位置にある。肉眼では1つの星に見えるが、双眼鏡で見ると二重星であることがわかる。アルビレオの2つの星は実際には近くにあるのではなく、地球から見たとき同じような方角にあるため近くに見える見かけの二重星だ。
〇3級
■正答率の高かった問題
【問1】選択肢から自ら光っている天体を選ぶ問題(99.5%)。恒星が正答。
【問24】宇宙飛行士が国際宇宙ステーションでどのように睡眠をとっているかを問う問題(96.5%)。微小重力下では体がふわふわ漂ってしまわない工夫が必要になる。
【問57】星座のβ星が、その星座で何番目に明るいかを問う問題(94.9%)。一番明るい星から順にギリシャ語のアルファベットが付けられているので、2番目が正解だが、付けられた当時の肉眼観測によるものなので、一部例外が存在する。
【問12】日本で虹の色として挙げられる7色を問う問題(92.8%)。日本では7色だが、国や時代によって、その色や数が異なる。日本では太陽を赤色で表現するのが一般的だが、欧米では黄色などを用いるという。人の感覚はさまざまでおもしろい。
【問17】惑星記号が示す惑星名を選ぶ問題(92.8%)。天文符号・惑星記号・星座記号に関する問題は3級の定番問題ともいえる。占星術にくわしい方にはやさしい問題だったかもしれない。海王星の惑星記号は海神ポセイドンが持つ三叉の戟に由来する。
■正答率の低かった問題
【問5】史上初の彗星着陸に成功した探査機を問う問題(9.3%)。着陸したのは、探査機「ロゼッタ」からチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に投下された「フィラエ」。2014年の出来事であるが、ロゼッタが打ち上げられたのは、そのおよそ10年前の2004年。64億㎞もの距離を飛行した。
【問56】火箭(かせん)が発明されたのがおよそ何年前か問う問題(21.7%)。火箭とは戦で火をつけて放たれた矢のことで、中国で発明されたロケットの祖といわれる兵器である。第二次世界大戦後、米ソの宇宙開発戦争を牽引(けんいん)したのもドイツが用いた兵器「V2ロケット」の技術者らであった。ロケットの歴史は戦争と縁が深いのである。
【問3】図に描かれた星座の位置から経過時間を選ぶ問題(28.9%)。北半球の天体は北極星を中心に反時計回りに1時間あたり15度の角度で円を描くように移動するという知識の応用。入試問題などにも出題されることがあるという問題である。
【問45】軌道傾斜角が最も大きい惑星を選ぶ問題(29.1%)。軌道傾斜角という語に戸惑ってしまった方が多かったようだ。惑星の軌道傾斜角とは、地球が太陽の周りを回る軌道をひとつの平面(軌道面)ととらえ、それを基準とした場合に、各惑星の軌道面がどの程度の傾きがあるかを表したものである。多くの方が金星を選んだようだ。金星の自転方向は他の惑星とは逆向きだが、軌道傾斜角は3.4度である。水星の7.0度がもっとも大きい。なお、惑星の軌道傾斜角以外にも、月・衛星の軌道傾斜角、人工衛星の軌道傾斜角、さらに連星の軌道傾斜角などもある。一般には、何かの基準面に対する軌道面の傾きを軌道傾斜角と呼ぶが、軸の傾きで定義することもあるので、それぞれの状況で学んでほしい。
【問51】日没にかかる時間について正しい記述を選ぶ問題(30.5%)。日の出・日の入りの時刻とは、太陽の上辺が地平線(または水平線)に一致する時刻をいう。したがって、日の出の時刻は太陽が出始めた瞬間で、日の入りの時刻は沈み切った瞬間の時刻となる。さて、赤道では太陽は垂直に沈むが、日本のような中緯度自体では太陽は斜めに沈む。そのため、日没の場合、太陽の下辺が地平線に接してから完全に姿を消すまでにかかる時間は、地球上では緯度によって変わる。そして緯度が高い地域ほど時間がかかることになる。
〇2級
■正答率の高かった問題
【問60】地球の歴史上5回あったといわれている種の大量絶滅のうち、年表から恐竜が絶滅したものを選ぶ問題(92.9%)。正解は白亜紀末の約6600万年前。チクシュルーブ・クレーターにその痕跡が残る。小惑星の衝突説は1979年に提唱された。
【問50】地球上の酸素の供給源とその濃度に関する問題(90.8%)。過去には地球誕生から現在に至るまでの大気成分の変遷を問う問題が出題されたこともある定番問題ともいえる設問。
【問7】同程度の大きさの銀河同士が衝突するときに起きる影響について考えられるものを問う問題(88.7%)。銀河の衝突はよく起こるが、星の衝突はめったに起こらない。ちなみに大型銀河が矮小銀河を吸収しても、大型銀河の側はたいして形が乱れない。
【問14】宇宙・地球・人体における元素の存在比の円グラフを選択する問題(87.6%)。人の体を作る元素は、星の誕生と死によってもたらされた元素でできている。天文学者が「われわれは星の子」と言うゆえんである。
【問30】生物の3条件に入らないものを選ぶ問題(87.3%)。ウイルスは、自己複製はするが、自身で代謝をせず、自力で増殖できないため生物には分類されない。
■正答率の低かった問題
【問29】宇宙線の主成分を問う問題(19.5%)。国際宇宙ステーションでは宇宙飛行士の放射線被ばく軽減のためクルークォータという公衆電話ボックス程の大きさの設備があり、宇宙放射線を約9%減衰することができる。
【問39】軌道傾斜角と軌道周期および概略図から、その軌道の名称を問う問題(29.2%)。国土が高緯度にあるロシアでは、赤道上を周回する静止軌道は利用しづらいためモルニア軌道が考案された。軌道離心率が高く長楕円軌道になる特徴を図から読み取れれば正答に辿り着けるだろう。
【問4】恒星のスペクトルから得られない情報について問う問題(32.7%)。天球上での位置の変化はスペクトルからは得ることができない情報。
【問48】海王星の発見にまつわる天文学者の名前を問う問題(32.9%)。科学的な功績はその発見・発明を一番に公表した者にのみ与えられる。海王星発見者の栄誉に関するルベリエ、アダムス、ガレによる争いは有名である。
【問44】距離と見かけの等級から絶対等級を求める問題(37.3%)。ある距離にある恒星の等級が見かけの等級で、かりに、その恒星を32.6光年の位置に置いた場合の等級が絶対等級となる。したがって、恒星の距離・見かけの等級・絶対等級の間には関係がある。その関係(距離指数と呼ばれる)は、天体の明るさが距離の2乗に反比例すること、1等級の明るさの比が一定で約2.5倍であることなどから導くことができるが、その関係を図示したものが『公式テキスト2級』掲載の図表4-3である。距離指数の関係式には対数関数が出てきて少し難しいが、恒星の距離は天文学の基礎中の基礎なので、少し背伸びして、距離指数というものも調べてみてほしい。
〇1級・準1級
■正答率の高かった問題
【問20】温度が10 Kの分子雲と表面温度が4000 Kの前主系列星がそれぞれ最も明るく輝く波長の組み合わせを選ぶ問題(81.3%)。熱放射(黒体輻射)の基礎的な性質は知っておいてほしい。すなわち、低温の物体は電波や赤外線を、数千度になると可視光を、そして数千万度ぐらいではX線を放射する。またウィーンの変位則から、温度の比率は振動数の比率(あるいは波長の逆比)になることも感覚で覚えてほしい。
【問32】2024年2月に月面着陸に成功したJAXAの小型月着陸実証機「SLIM」について誤った記述を選ぶ問題(80.4%)。ごく最近の時事問題で、正答率はもっと高いかと思っていたが、ピンポイント着陸やひっくり返ったことなどは有名だったが、XRISM衛星と一緒だったことや世界で何番目かは、案外と知られていなかったのかもしれない。
【問31】物質はないが宇宙項Λのある宇宙モデルの名称を問う問題(78.5%)。具体的な式などは出てこないので、1級参考書を丁寧に読んでいれば、解ける問題にはなっている。ただ正答した人も間違った人も、静止宇宙、ビッグバン宇宙、ド・ジッター宇宙の振る舞いの違いは、もう一度、確認しておいてほしい。
【問16】ある活動銀河の中心核をパーセクスケールに相当する空間分解能で電波観測したところ得られた輝度温度の観測結果の意味するものを選ぶ問題(74.8%)。温度には熱放射の温度以外にもいろいろあり、輝度温度の概念は比較的難しい範疇になるが、予想外に正答率が高かった。たとえば、非接触式電子体温計で測っているのは輝度温度だが、熱放射をしている物体(たとえば人間)の輝度温度は熱放射の温度と等しい。一方、太陽放射を散乱している青空の輝度温度は6000Kぐらいになるが、もちろん実際に空の温度がそんな高温なはずはない。また最近では、部屋の電灯がどんどんLED光源に変わりつつあるが、蛍光灯に比べてLED光源が眩しいのも輝度温度が高いためだろう。
【問8】アインシュタインの業績でないものを選ぶ問題(69.2%)。アインシュタインは自分自身が打ち立てた一般相対性理論でさまざまな予想をし、静止宇宙モデル、重力レンズ現象、重力波などは導いたが、意外なことに、静止した球対称のブラックホール解はシュバルツシルトが導出した。相対性理論から導かれる新しい現象は数多くあり、さすがのアインシュタインもすべてには手が回らなかったということだろう。
■正答率の低かった問題
【問5】日本が実施した宇宙での生命科学実験のうち、水棲生物実験用の装置で使われたことがない生物種を問う問題(10.3%)。さまざまな水棲生物種について実験されているので、たしかに難易度が高い問題だったといえる。
【問37】さまざまな天体現象を、発見順に正しく並べたものを選ぶ問題(14.0%)。天文学における大発見の続いた1960年代の話である。ダークエネルギー(宇宙の加速膨張)や重力波の直接検出そしてブラックホールシャドウの発見が続いた今世紀初頭も、後日、発見の時代と呼ばれるかもしれない。科学の流れは連続的なものなので、科学史の本や科学者の伝記などにも、ときには手を伸ばしてほしい。
【問25】静止した一様星間物質中における点源爆発のセドフ解の圧力、密度、速度の変化を表す3つ図の正しい組み合わせを選ぶ問題(14.0%)。これはセドフ解自体を知らなくても、問題文とグラフの読み取りから、ある程度は推理できる。まず周辺は静止した一様な星間物質なので、遠方では速度が0(縦軸の物理量が0)であるCが速度のグラフになる。圧力と密度の選択は少し難しいが、静止した星間物質中における点源爆発とは、ようは超新星爆発のことなので、爆発でガスが吹き飛んでしまうことを思うと、中心まで何かの物理量があるBでなく、中心で物理量が0になっているAが密度だという推測が正しい答えとなる。
【問18】大文字が2つ使われている星座の略符号の数を問う問題(17.8%)。正答は10個。この問題は内容的には3級に入るかもしれないが、たまには2級や3級の話も振り返っていただきたい。
【問11】質量Mの天体の周りを質量m の天体が、半径a 、角速度ωで円運動しているときの質量m の天体に働く遠心力fと角運動量Lを表す式の組み合わせを選ぶ問題(29.0%)。遠心力はニュートン力学で必ず出てくる式なので、比較的よく知られているだろう。わかりにくいのは角運動量の式だと思うが、回転にかかわる運動量の一種だと考えて、回転に関わるから回転半径aと回転方向の運動量と思えば回転速度aωになるので、m×a×aω、となるように考えるといいだろう。
〇第17回天文宇宙検定 講評
天文学に限らず、たいていの学問は積み上げ方式になっている。“楽しみながら学んでもらいたい”天文宇宙検定も、積み上げ方式に関しては例外ではない。4級・3級では、天文学の基礎的な用語や概念、そして主な天体現象が美麗な画像とともに“紹介”してある。その結果、どうしても検定問題は暗記物が中心になってしまうキライはあるが、ここはまだ“紹介”なので、、“紹介”の先に興味を繋いでほしいのだ。たとえば、星座や星の名前は“なぜ”そんな名前や決まりになったのかなど、古代から近代までの天文学の流れや、天体現象は“なぜ”起こるのかなど、宇宙を統べるルールの存在に思いを馳せてほしいわけだ。そして2級テキストで、天文学の基礎知識をベースにして、天体現象の“なぜ”が少しだけ紐解かれてくる。同時に、物理学や数学の概念や手法が出てきて、なにより、数式も少し使われ始める。天文学で使われる数式を読み解くためには、さまざまな学問分野の手助けが必要なためだが、だからこそ、天文学は難しくも面白いのだ。
さて、新しい受験者も増えてきたようで、あらためて数式について、少し述べてみたい。まずは、数式の表現自体が重要なのではなく、重要なのは数式で表されている内容だという点を、あらためて強く述べておきたい。万有引力の法則も言葉で表せば3行にも4行にもなるが、数式だと、いくつかの約束事を決めておけば、1行で簡潔に表現できる。そしてまた計算もとてつもなく楽になる。2級さらに1級になると、どうしても“数式の壁”が現れ、その壁を乗り越えないと進めない部分が出てくるだろう。そんなときは、一度、数式で書かれた内容を、文章で表してみてほしい。たとえば、今回の1級【問11】で出てきた角運動量Lの式ma2ωは、“角運動量とは回転方向の運動量のようなもので、質量と回転半径と回転速度を掛けたものになる。ただし、回転速度は回転半径と回転角速度を掛けて表すこともできる”あたりだろうか。後は、質量にm、回転半径にa、そして回転角速度にωの文字を割り当てれば角運動量の数式になる。言葉による表現でも数式による表現でも、表している内容は変わらない(慣れれば数式の方が便利だというだけ)。実は、さらに重要で面白いのは、そのまた先である。天体現象を数式で表せたとして、ではその数式はいったい“何を意味しているのか”という謎だ。だんだん禅問答のようになってきたが、たとえば万有引力の法則がいい例だろう。言葉でも数式でもいいが、万有引力の法則が表されました。では、質量とはなんですか、なぜ距離の2乗に反比例するのですか。ニュートンでさえ、この問いには答えていない問題なので、ますます禅問答になっていきそうだが、そんな謎の階段を少しずつ上っていただきたいと思う。
しかしながら、翻って見ると、2011年に第1回が実施された天文宇宙検定も、いつの間にか、10数年も続いた<面白>イベントになってきた。そして、3級・4級に立ち戻ると、今回(も?)、3級・4級ともに、最年少受験者は5歳、最高齢受験者は85歳となっている。世の中のイベントで、子供から大人まで参加するものは多いだろうが、5歳から85歳の範囲の人が、“同時に同じ土俵で同じ試験を受けている”というようなものは多くはないだろう。そう思うと、これはある意味すごいことではないだろうか。今後の行く末も楽しみである。
2024年9月吉日
天文宇宙検定委員会
第16回 天文宇宙検定(2023年11月19日)の受験者統計データと天文宇宙検定委員会による講評文を発表
します。
表が小さくて見づらい場合には、クリックすると拡大表示されます。
◎受験者データ
◎試験問題の難易度
1)正答率の高かった問題
最も正答率が高かった(やさしかった)問題を1位として、各級の上位10位までを並べた。
「問No.」は、試験出題番号を表す。
出題問題と正答・解説は解答速報をご覧ください。
3級の問26は、設問に誤りがあったため、全員正答とした。詳細は後述。
2)正答率の低かった問題
最も正答率が低かった(難しかった)問題を最下位に、各級の正答率が低い順に10位までを並べた。
「問No.」は、試験出題番号。
出題問題と正答・解説は解答速報をご覧ください。
1・4級の出題数は全40問、2・3級は全60問が出題された。詳細は後述。
◎年齢別合格率
年齢別の合格率は以下のとおりであった。最下段は各級の合格率を示す。
◎得点分布
各級の受験者の点数分布は以下のとおりであった。表の太線が合否の境界を示す。
1級試験の場合は、60点以上70点未満で準1級合格、70点以上で1級合格となる。
◎4級
4級受験者の年齢構成をみると、10歳未満と10代で全4級受験者の過半数を超えた(53.0%)。合格率は、前回(82.7%)とほぼ同じで85.3%と8割を超えている。年齢別に合格率をみると、10歳未満(79.5%)、10代(80.6%)で、成人では85%を超えた。これらの傾向は、この数年にわたって変化はない。今回の試験での最高得点は満点の100点であった。
正答率が9割を超えた問題は、6問あった。高いものからみてみよう。
【問1】地球は北極と南極を通る直線を軸にして1日1回転している。これを何というか。正答は「自転」(正答率96.5%)。
【問10】オーロラがたくさん見られるのは、地球のどの地域か。正答は「北極や南極の近く」(正答率95.4%)。オーロラ発生の原因となる太陽風のプラズマが、巨大な磁石ともいえる地球の磁力線にそって両極へ降り注ぐためである。
【問25】次の文は、ある惑星についての説明である。どの惑星について述べたものか。「地球よりも小さいために、重力が地球の40%ほどしかなく、そのため大気がうすくなっている。地表面には、赤さびの成分の酸化鉄がたくさんあるため、赤く見みえる」。正答は「火星」(正答率94.3%)。太陽系惑星の特徴に関する設問は、4級ではよく出題される問題である。火星は夜空に赤くどっしりと輝いている見つけやすい星だ。
【問21】次のうち、天体望遠鏡で観察できないものはどれか。正答は「太陽風」(93.2%)。
【問7】星をさがすときの「手のものさし」で、およそ10°を示すのは次のうちどれか。正答は「こぶし(グー)1個がおよそ10°」(正答率91.0%)。うではひじをのばした状態で測る。天体観測のさまざまな手法について学ぶのも4級の特色である。星のよくみえる地に行かれたら、ぜひこの知識を生かしてほしい。
【問23】地球で体重が48kgの人が、月面で体重計に乗ると何kgになるか。正答は「8kg」(正答率90.2%)。月の重力が地球の約6分の1しかないことによる。
正答率が過半数に満たなかった問題を正答者が少なかった順に挙げてみる。
【問11】次の中で、自転軸の傾きが一番大きい惑星はどれか。正答は「金星」(正答率19.9%)。金星は、他の惑星と異なり、逆向きに自転している。自転軸の傾きは177°である。ほぼ横倒しで自転している天王星を選んでしまった方が多かったようだ。
【問40】1つの星座なのに2つの部分に分かれている星座はどれか。正答は「へび座」(22.1%)。へび座はへびつかい座が持つへびの部分。へびつかい座と絵としては一体化しており、2つの星座が重なっている部分はへびつかい座としたため、へび座は頭部と尾部の2つにわかれてしまった。
【問6】星雲や星団、銀河にはMとかNGCという記号がつけられている。これはそれぞれ天体に番号をつけたカタログの記号である。次のうち、まちがっているものはどれか。正答(まちがっているもの)は、「MとNGCではMの方が数が多い」(正答率30.0%)。それぞれの記号がつくられたいきさつを理解していると正答にたどりつくのもたやすいだろう。
【問26】太陽を直径1mの球だとすると、アンタレスはどのくらいの大きさになるか。正答は「直径700mの球で、東京スカイツリーがすっぽり入るくらい」(正答率48.2%)。アンタレスは夏の代表的な星座であるさそり座の心臓にあたる1等星で、赤く輝く目立つ星である。さそり座のしっぽのS字の星の並びは見つけやすいので、夏の夜、南の空を探してみてほしい。
◎3級
受験者は10代が最も多く(36.8%)、20代と併せると54.7%を占めた。今回の合格率は前回(74.5%)よりもわずかに下がった71.2%であった。3級は中学での天文学履修レベルを想定しての出題である。10歳未満の合格率は46.4%。10代合格率は57.4%であった。その他の世代の合格率は、最も高い30代の90.9%を筆頭に50%を超えた。得点分布をみてみると70~79点が全体の23.3%を占めている。今回の試験での最高得点は98点であった。
正答率が9割を超えた問題は、次の7問。
【問26】図は天の南極を中心とした星座図だが、Aの星の名は何か。設問では星座図から恒星名を問う設問であったが、正答であるおとめ座のスピカを指す矢印の位置に誤りがあったため、全員正答とした。あらためて、お詫び申し上げ、訂正いたします。
【問30】天文単位とは、どんな単位か。正答は「もともとは地球-太陽間の平均距離を1とした長さの単位」(正答率96.7%)。
【問23】次の写真は何か(巨石遺跡の写真から名称を選ぶ問題)。正答は「ストーンヘンジ」(正答率93.3%)。
【問53】次の太陽系の天体で、環を持たないものはどれか。正答は「火星」(正答率93.3%)。太陽系惑星の環については4級テキストにも記述がある頻出問題。ただし、準惑星や小惑星の特徴については、3級テキストに詳しい。
【問47】現在、世界の多くの国々で採用されている太陽暦の名前は何か。正答「グレゴリオ暦」(正答率91.4%)。ふだん何気なく使っている暦は先人たちの苦労の賜物。様々な暦が歴史上に存在しているのをおさらいすると、為政者たちの思惑もからんでおもしろい。
【問49】水星、金星、火星の惑星記号をこの順に並ならべたものはどれか。正答は解答速報を参照願いたい(正答率91.3%)。惑星記号は3級の定番問題となっている。星座記号や天文符号は占星術でも用いられるので、本やテレビでみたことがある人も多いだろう。由来とあわせると覚えやすい。
【問46】暗黒星雲の主成分はどれか。正答は「ガスと塵」(正答率90.5%)。そのガスの主成分は、宇宙にもっとも多く存在する元素である水素と、次に多いヘリウムである。
正答率が低かった問題は、以下が挙げられる。
【問40】宇宙線の粒子で最も多いものはどれか。正答「陽子」(正答率11.5%)。陽子は宇宙線の成分の約90%を占める。
【問37】トロヤ群小惑星のうち、木星の進行方向前方のものを特に区別するときは、何と呼ぶか。正答は「ギリシャ群」(正答率25.1%)。叙事詩『イリアス』に書かれたトロイヤ戦争にちなんで名づけられたという。
【問51】二十四節気の1つである「処暑」は、いつ頃ごろになるか。正答は「立秋と秋分の間」(正答率30.1%)。立秋は8月7日頃。秋分は9月22日か23日頃。地球温暖化が問題視されて久しいが、二十四節気を覚えていると、四季の移ろいにも趣を感じられるようになるだろう。
◎2級
平均合格率は、前年(43.6%)とほぼ変わらず43.8%。平均点は前回と同じ65.3点だった。得点分布をみてみると、70~79点に24.9%のピークがある。合格率は、過去4回つづけて40%台となっている。今回の試験での最高得点は満点の100点であった。
正答率が高かった問題は上から順に以下の通り。
【問45】次のうち、赤色巨星はどれか。正答「オリオン座のベテルギウス」(正答率91.1%)。「超新星爆発するぞ、もうするぞ!」と、メディアにあおられ続けているあの星である。
【問3】京都モデルによると、惑星はどのように誕生したと考えられているか。正答は「原始太陽系円盤の中の塵が集まって微惑星となり、それらが衝突合体して惑星ができた」(正答率89.4%)。京都大学の林忠四郎が提唱した京都モデルは現在もっとも有力視されている太陽系形成のシナリオである。優れた業績を上げた天文学者に与えられる日本天文学会林忠四郎賞が1996年に創設されている。
【問44】次のHR図中で、褐色矮星が位置するのはどこか。正答は解答速報を参照(正答率89.4%)。HR(ヘルツシュプルング・ラッセル)図は高校地学の教科書にも掲載される2級試験の頻出問題のひとつ。
【問26】太陽と同程度の質量の恒星は、星の終焉にはどのような星雲を形成するか。正答は「惑星状星雲」(正答率89.0%)。続々と公開されているジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた画像のなかでも、惑星状星雲は、かつての天体写真しか知らない世代には驚きを与える鮮明さである。
【問21】宇宙の内容物を分類したとき、最も割合の多いものはどれか。正答「ダークエネルギー」(正答率86.6%)。タークマターに引っ張られてしまった受験者が若干。宇宙の過半を占めるものが、未だ正体のわからない未知の物質というのは何とも不可思議な話である。
【問48】十干十二支の組み合わせは何通りあるか。正答は「60通り」(正答率86.4%)。還暦の由来である。
正答率が低かった問題は、難しかった順に以下が挙げられる。
【問42】太陽コロナのうちKコロナについて正しく述べたものはどれか。正答は「コロナ中の電子は5000 km/sもの高速で運動している」(正答率20.7%)。
【問47】銀河の衝突に関する記述のうち、間違っているのはどれか。正答は「天の川銀河は現在、他の銀河と衝突していない」(正答率24.9%)。天の川銀河は現在もいくつかの矮小銀河と衝突中である。
【問13】惑星の軌道に関する記述のうち、正しいものはどれか。正答は「離心率eの惑星の近日点での公転速度は、遠日点の公転速度の(1+e)/(1-e)倍である」(正答率25.0%)。ケプラーの法則については、2級の定番ともいえる問題であるが、毎回、正答率が低い傾向がみられる。
【問46】次の天体の中で、水素からヘリウムを合成して安定して輝いているB型星の割合が最も少ないと考えられるものはどれか。正答は「りょうけん座のM 3」(正答率 25.6%)。B型星は高温の主系列星で若い星であり寿命が短いことから、老いた星の集まりである球状星団に少ないとわかる。
【問8】次のうち、4つの天体が発見された順に正しく並んでいるのはどれか。正答は「天王星-ケレス-海王星-冥王星」(正答率27.0%)。ピアッツィによるケレス発見がいつかわからなかった方が多かったようだ。ケレスは小惑星帯にある最大の天体で、1801年に発見された。
◎1級・準1級
今試験の1級合格率は1.6%。過去3年にわたって合格率は5%を超えていない。平均点は43.5%であった。準1級は、60点以上70点未満が合格となるので、1級受験者のうち4.7%が準1級に合格された。1級受験者の81.3%が男性であった。今回の試験での最高得点は77点であった。
正答率が高かった問題は上から順に以下の通り。
【問8】2023年は、あるものが発明されて100年という節目の年である。あるものとは次のうちどれか。正答は「プラネタリウム」(正答率84.4%)。1923年にドイツ博物館で近代的光学式プラネタリウムが公開されて100年がたち、国内でもさまざまな記念事業が展開された。ニュースにもなったが天文時事問題にアンテナを張っている人も多くなったのだろう。
【問21】雪線(スノーライン)についての説明のうち、誤っているものを選べ。正答「木星型惑星と天王星型惑星を分ける境界である」(正答率78.9%)。
【問37】分子雲についての記述のうち、誤っているものを選べ。正答は「分子雲の主成分は一酸化炭素とアンモニアであり、恒星の組成とは異なる」(正答率74.2%)。さまざまな用語や概念は個々に覚えずに、分子雲から原始星が原始星そして恒星が生まれていく、というストーリー(流れ)を把握していくことが大事である。
【問32】2023年8月23日、インドが月探査機「チャンドラヤーン3号」の着陸機を月面に着陸させることに成功した。この結果、インドは、探査機の月面軟着陸に成功した何番目の国になったか。「4番目」(正答率73.4%)。日本は、2024年1月に5番目の月面着陸を成功させている。
【問35】天体に働く潮汐加速度の分布はどれか。なお、潮汐力を与える天体は図のx軸上の右側に位置しており、矢印の方向と大きさが潮汐加速度の方向と大きさを表す。選択肢および正答は解答速報を参照(正答率72.7%)。潮汐力は案外と扱うのが難しく、2級までの範囲では正確な説明ができない。潮汐力は大きさをもった物体の場所ごとにおける重力の差にすぎないのだが、差=微分的な見方が必要になるためだ。各場所にはたらく重力(ベクトル)から重心にはたらく重力(ベクトル)は作図でも描けるので、実際に描いてみてほしい。
【問27】トランジット法で得られる系外惑星の減光率についての記述のうち、正しいものを選べ。正答は「減光率は系外惑星の半径の2乗に比例する」(正答率71.9%)
正答率が低かった問題は、低かった順に以下が挙げられる。
【問19】1860年代に太陽コロナ中に発見された、輝線を発する物質「コロニウム」の正体を選べ。正答は「鉄」(正答率2.3%)。
【問7】密度が一定の球内の重力の大きさは、球の中心からの距離 r によってどのように変化するか。正答は「r に比例する」(正答率16.4%)。天体現象において重力は基本的な概念で、重力場に関わる問題、とくに球や球殻などの重力場は比較的定番の問題である。いろいろなバリエーションがあるので、過去問なども研究してみてもらえると勉強になるだろう。
【問5】1600年に出現した「はくちょう座新星」の天体種として適切なものを選べ。正答は「高輝度青色変光星」(正答率16.4%)。
【問16】宇宙線(宇宙から飛来する高エネルギーの粒子線)が発見されたのは何年か。正答「1911年」(正答率18.0%)。ヴィクトル・ヘスが行った気球観測で発見された。
【問17】銀河や星雲のように面積をもつ天体の表面輝度についての記述のうち、正しいものを選べ。正答は「星間吸収の影響を無視すれば、距離によらず一定である」(正答率18.8%)。輝度のような放射に関わる概念は一般に難易度が高いが、公式参考書には丁寧に説明してあるので、輝度不変の法則と明るさが距離の2乗で減少することの違いを調べてみてほしい。
◎第16回天文宇宙検定 講評
具体的な数値などは合格率のところに書いてあるが、年齢別合格率について振り返ってみよう。4級は各年代でおおよそ80%から90%程度であり、年代ごとの違いはあまりなさそうだ。3級と2級は中学・高校レベルということもあって、まだ学校で習っていない10代前後以下よりも、10代前後以上の現役世代の合格率が高くなっているようだ。それぞれ、現役世代での合格率が、3級は80%±10%ぐらい、2級は50%ぐらいで揃っているのも面白い。とくに2級では、リタイア世代がバリバリの現役世代と同じぐらいの合格率を叩き出しているのは、同じリタイア世代としては勇気づけられる。作問者側もリタイア世代が増えてきたが、天文宇宙検定の問題を作成することで、頭が錆び付かずにすんでいる(笑)。いやいや、受験者のみなさんと共に、相変わらず勉強できているのである。
さて1級の合格率だが、今回も1級受験者全体の1.6%と低いものの、前回(0%)、前々回(0.7%)と比べれば、やや高くなった。とはいえ、望むらくは、10%とはいわないまでも、まずは5%程度には上がってほしいと思う。1級攻略法としては、何度か書いたように、天文学だけでなく、大学初年級の数学や物理(微積分と微分方程式と力学)も合わせて勉強するということは重要である。また今回の出題にもあったが、重力(万有引力)に関わる問題など、定番問題を押さえておくことも大事だ。星のHR図や進化など、天文の基本だが2級で学ぶ内容については、その一歩先の範囲を学んでおくと1級に対処できることがあるだろう。逆に、磁場や輻射場、高エネルギー天文学など、2級までの公式テキストではほとんど出てこない概念も、1級問題には出やすい分野だといえる。最後に、今回の問8 プラネタリウムの発明から100年の設問のように、時事問題は出題範囲が限られており山を張りやすい(笑)ので、ここらへんは落とさないようにしてほしい。
なんだか毎度まいど、同じようなことを書いている気がしてきたが、若い人は若い人なりに、現役世代は現役世代なりに、リタイア世代もリタイア世代なりに、みなさん、それなりに楽しんでいただきたいと願う。
2024年4月吉日
天文宇宙検定委員会
第16回試験問題について、ご意見・ご質問を頂戴しまして、ありがとうございます。
以下のとおり、ご質問へご回答申し上げます。
質問者からの文章は、一部を割愛させていただきました。ご了承ください。
■3級・問26
【問題】
図は天の南極を中心とした星座図だが、Aの星の名は何か。
①スピカ
②アンタレス
③カノープス
④フォーマルハウト
【正答】
①スピカ
【解説】
Aはおとめ座のスピカ。アンタレス、カノープス、フォーマルハウトなどは南寄りの星だが、スピカ(おとめ座)も思いの外に南よりにある。
【質問】
『スピカは、もう一つ右下の星』ではないでしょうか?
【回答】
ご質問をいただき、ありがとうございます。
ご指摘のとおり、スピカを示す矢印に誤りがございました。正しくは以下のとおりです。
解答速報に、上記を反映をして説明を補足いたしました。
なお、『公式テキスト3級 2023-2024年版』の記述にも同様に誤りがございました。
公式ホームページにて正誤表を更新しております。
訂正し、深くお詫び申し上げます。
なお、3級試験問題 問26については、
正答がない問題となりますため、全員正解といたします。
お詫び——名古屋会場の試験開始時刻遅延について
第15回検定試験では、運営事務局の不手際が原因で、名古屋会場において試験問題冊子の到着が遅れるという事故が生じました。この影響により、名古屋会場の試験開始時刻が1時間遅れ、一部の受験予定の方々には、受験を断念いただかざるを得ないなど、多大なご迷惑をおかけしてしまいました。誠に申し訳ございませんでした。衷心より深くお詫び申し上げます。今後、同様の事故が生じないよう、万全の対応を講じてまいります。
各級合格率・最高得点・平均点
試験問題の難易度
1)正答率の高かった問題
最も正答率が高かった(やさしかった)問題を1位として、各級の上位10位までを並べた。
「問No.」は、試験出題番号を表す。詳細は後述。
2)正答率の低かった問題
最も正答率が低かった(難しかった)問題を最下位に、各級の正答率が低い順に10位までを並べた。
「問No.」は、試験出題番号。
1・4級の出題数は全40問、2・3級は全60問が出題された。詳細は後述。
年齢別合格率
年齢別の合格率は以下のとおりであった。各級最下段の計は、各級の総受験者の合格率を示す。
点数分布
各級の受験者の点数分布は以下のとおりであった。表の太線が合否の境界を示す。
1級の場合、60点以上で、準1級合格、70点以上で1級合格となる。
4級
今回の4級試験の合格率は82.7%。4級受験者の約6割を10歳未満と10代で占めた。年齢別の合格率は、30代以上ではほぼ90%以上であった。
正答率が9割を超えた問題は、次の3問。
【問22】地球は、どの天体の仲間か(97.2%)。正答は「惑星」。地球は自分で光を出す恒星(太陽)のまわりを回る惑星である。
【問14】星座早見ばんで、調べられるものはどれか。(95.2%)。正答は「①その日時の星座の位置」。惑星・月・彗星は、星座早見ばんには表示されていない。
【問5】次のうち、一番明るい星はどれか(93.5%)。数字が小さいほど明るいので、正答は「④-3等級の星」が最も明るい。
正答率が低かった問題は、以下が挙げられる。
【問31】太陽について、まちがっているものはどれか(19.3%)。正答は、「②日本から太陽を数日間連続して観測すると、黒点が西から東へ移動しているのがわかる」。太陽も自転しているので、地球から連続観測すると、黒点が太陽表面をまるで移動しているように見える。太陽の自転の向きは地球の自転と同じで左回り(反時計回り)なので、地球から見て、左から右へ動いて見える。つまり選択肢②の「黒点が西から東へ移動している」は移動の向きが逆であり、まちがいといえる。
【問18】地球の内部について、正しいものはどれか(25.6%)。正答は「③外核は液体、内核は固体になっている」。地球の中心部にある内核は、固体の鉄・ニッケルでできている。
【問25】火星のオリンポス山について、まちがっているものはどれか(30.9%)。正答は「③マリネリス峡谷のすぐ横にある」。4級公式テキストの火星表面の地図を見直してみよう。広い裾野をもったオリンポス山は、マリネリス峡谷と離れた場所にある。
3級
今回の合格率はほぼ前回と同じ74.5%。10代の合格率の低さが目立つ結果となった。
正答率が9割を超えた問題は、次の4問。
【問4】月の誕生に関係する最も有力な学説であるジャイアントインパクト説とはどのようなものか。(97.0%)。正答は「④原始地球に火星サイズの原始惑星が衝突し、地球や小天体の破片が集まって月ができた」。『3級公式テキスト』には、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト他制作のジャイアントインパクトのシミュレーション動画をQRコードで掲載している。
【問16】次の天体のうち、人類が送った探査機が着陸したことがないものはどれか(94.7%)。正答は「③水星」。火星・月・小惑星には、探査機が着陸している。
【問53】皆既月食中の月が赤かったのはなぜか(94.7%)。正答は「②地球の大気を通過した太陽光が照らすため」。地球の大気層を通過した太陽光は、大気層で屈折して進路が曲がり、さらに青い光は散乱されるため、残りの赤い光が地球の影に入った月を照らす。そのため、月食中の月は赤く見える。
【問17】「宇宙」という言葉が表す意味として、正しいものは次のうちどれか(94.0%)。正答「①空間と時間」。中国の前漢時代の論集 『淮南子(えなんじ)』に由来するという。
正答率が低かった問題は、以下が挙げられる。
【問37】太陽から土星までの平均距離はおよそ何 auか(31.7%)。正答は「②10 au」。太陽から地球までが1 au。そのおよそ10倍の位置に土星がある。海王星は太陽からおよそ30 au離れている。
【問31】次の4人の中で、近世ヨーロッパのポーランド出身の天文学者は誰か(33.2%)。正答は「③ニコラス・コペルニクス」。彼が地動説を主張した『天球回転論』は、コペルニクスが亡くなる年に出版された。
【問58】太陽の日周運動を基にした時刻システムを太陽時といい、日常生活では一定の動きをする仮想的な太陽で考えた平均太陽時を用いる。では、実際の太陽の運動を用いた時刻を何というか。(33.6%)。正答は「①真太陽時」。紛らわしい選択肢に惑わされた受験者が多かったようである。
2級
平均合格率はほぼ前年並みであった。高校地学レベルという2級の試験水準から、10歳未満・10代合格率は低めになるのも例年通りの特徴である。
正答率が高かった問題は上から順に以下の通り。
【問20】化学的には同じだが、立体構造が鏡映対称になっている分子を何と呼ぶか。(87.4%)。正答は「④D(dextrorotatory)型と L(levorotatory)型」。問題には図が添えられている。生命のホモキラリティー問題については宇宙に興味をもつ者にとっても興味深い謎であり、注目度が高いことが正答率の高さに現れたようだ。
【問45】質量が太陽の質量の0.08倍以下の原始星の、その後の進化を表すものはどれか(86.8%)。正答は「①原始星→褐色矮星」。恒星の進化についての問題は2級の定番問題ともいえる。
【問22】皆既日食の観測の際に発見され、当時太陽にしかないと考えられていた元素はどれか。(86.2%)。正答は「①ヘリウム」。
【問44】太陽光を分光し、その中にバーコードのような暗線574本を最初に発見したのは誰か。(86.0%)。正答は「②ヨゼフ・フォン・フラウンホーファー」。
正答率が低かった問題は、以下が挙げられる。
【問48】次の文章中の【 ア 】、【 イ 】に当てはまる数値と語の組み合わせとして正しいものはどれか。「すべての恒星は、地球の公転運動によって長半径 a =約【 ア 】の楕円軌道を描く。これは【 イ 】と呼ばれ、地球が太陽の周りを公転している直接的な証拠の1つである。」(16.6%)。正答は「③ア:20″ イ:年周光行差」。年周光行差は1728年にジェームズ・ブラッドリーによって発見され、地球が公転しているという地動説が実証された。
【問60】次のうちベテルギウスについて正しく述べたものはどれか(19.9%)。正答は「④恒星の内部にはこの星で生成されたネオンがある」。赤色超巨星の段階に進んでいるベテルギウスの中心部ではシリコンや鉄を生成する核融合反応が進行するが、それ以前の赤色巨星の段階で生成したネオンやマグネシウムがある。
【問53】小惑星リュウグウについての記述のうち、間違っているのはどれか(25.6%)。正答は「④粒子の化学的特徴は、エコンドライト隕石と似ている」。エコンドライトは溶融を経験している隕石で、リュウグウはその起源から溶融は経験していないと考えられる。
1級・準1級
正答率が高かった問題は上から順に以下の通り。
【問22】オーロラの発光原理と同様のものを選べ(80.2%)。正答は「②蛍光灯」。
【問8】日本人と火星のかかわりについて、誤っているものを選べ(69.2%)。正答は、「②日本人が初めて望遠鏡で火星を見たのは明治時代になってからである」。江戸時代には、望遠鏡で火星を観測した日本人が存在する。
【問9】ある望遠鏡ではM型主系列星を1 kpcまで検出することができるが、それより遠いと暗くて検出できない。M型主系列星より光度が100万倍明るいM型超巨星を、この望遠鏡で検出できる限界の距離として最も適切なものを選べ。ただし、星間吸収は無視できるものとする(69.2%)。正答は「③1 Mpc」。
正答率が低かった問題は、以下が挙げられる。
【問35】2本のフリードマン=ルメートル方程式から、宇宙のエネルギー保存の式を導く際に使う仮定はどれか(8.8%)。正答は「④圧力を無視する」。
【問7】図(解答速報参照)は、横軸に振動数νの対数を、縦軸に電磁波の強度Fνの対数をとって表した電磁波スペクトルである。スペクトル指数が1.5のべき乗型スペクトルを選べ(14.3%)。政党は「②」
【問39】1992年に毛利衛宇宙飛行士は、宇宙環境が生物の概日性リズム(1日の生体リズム)に及ぼす影響を調べる実験を行った。その実験のサンプルは次のうちどれか(15.4%)。正答は「④アカパンカビ」
【問17】光学的厚みが1の媒質を通過すると光線の強さはどうなるか(17.6%)。政党は「②1/3ぐらいに減る」
第15回天文宇宙検定 講評
今回の試験では、2011年から15回開催してきた検定試験で初めて、1級合格者が0名という結果となった。過去1級試験は13回開催されている(第1回・第11回は1級試験未開催)。時に1%を切るような非常に低い合格率ながら、天文宇宙博士の称号を得る合格者を毎回輩出してきただけに残念である。天文学の普及を目指す我々としても、勉強会などの機会の提供などが必要なのではという意見もあり、検討を進めたいところである。
1級の合格者はもともと多くはないので統計学的には起こりうる結果だが、そもそも1級の合格者が少ない理由を改めて分析しておきたい。いままでの講評でも書いたように、おおむね、4級から1級は小中高大ぐらいのレベルに相当している。ただし、たとえば2級は高校生レベルとはいっても、高校における天文学は地学の一部(1/4程度)なので、分量的には高校の内容より多いかもしれない。実際、理系大学の学生や(文系大学に分類される)教育系大学の理系学生は、高校で地学を履修していないことが多いので、大学1回生の必修授業(半年15回)で2級テキストが非常に使いよい。同様に、1級参考書『極・宇宙を解く』は、理系大学や教育系大学理系などで、2回生~3回生向けのテキストによい(分量が多いので、半年で半分ぐらいしかできないが)。
このように、教育系大学などでは、2級テキストと1級参考書がスムーズに接続して使用されることもあるのに、1級が格段に難しくなる原因は2つほどある。一つは1級で扱う範囲(分量)が非常に多くなることだ。ただ、2級と重なっている内容も多いので、まったく新しい内容や用語は思うほどはないだろう。もう一つは、質的な問題として、数学的な計算と物理的な解釈が深くなっている点だ。すなわち、大学初年級で習う(復習する)、微積分や微分方程式などの数学的処方や力学その他の物理が、1級参考書では(簡単な説明はあるが)ふつうに使われている。大学であれば1回生でいろいろ学んだ後に、1級参考書へスムーズに接続できるが、一般的には、ここらへんが1級のハードルを上げているのではないかと考えられる。逆に言えば、若干の遠回りだが、天文学だけでなく、大学初年級の数学と諸科学(とくに、微積分と微分方程式と力学)も合わせて勉強してもらえると、『極・宇宙を解く』などの理解も深く速くなると思う。宇宙や物質をより深く理解するためには物理的知識が不可欠であるし、物理的知識を得るためには、数学という言語を習熟する必要があるわけだ。私事で申し訳ないが、筆者も還暦をすぎてから「場の量子論」に挑戦しているものの、難しくてまだまだである。でも少しずつでもわかると面白い! いくつになっても、学ぶことは楽しい、そういう境地にやがて達してほしいと思うところである。
2023年7月吉日
天文宇宙検定委員会
第15回試験問題について、いくつかのご指摘・ご質問を頂戴いたしました。ありがとうございます。
以下のとおり、回答申し上げます。
質問者からの文章は、一部を割愛させていただきました。ご了承ください。
■2級・問35
【問題】
次の4つの元素合成のうち、地球に存在する鉄より重い元素が合成された可能性のあるものはいくつあるか。
・ビッグバン時の元素合成
・星の内部での元素合成
・超新星爆発時の元素合成
・中性子星同士の合体時の元素合成
①1つ
②2つ
③3つ
④4つ
【正答】
②
【解説】
ビッグバン時の元素合成では、水素とヘリウム、およびわずかなリチウムしか合成できない。
星の内部では、鉄までの元素しか合成できない。
超新星爆発時には、その膨大なエネルギーにより、鉄より重い元素も合成できると考えられている。
また、中性子星同士の合体では、電気的な反発のない中性子を素早く捕獲するというRプロセスにより、金やプラチナなどのr過程元素がつくられ、宇宙空間にまき散らされた可能性が高いことが明らかになってきた。
したがって、この4つの元素合成のうち鉄より重い元素を合成できるのは、超新星爆発時と中性子星同士の合体のときの2つとなり、②が正答となる。
【質問】
・選択肢③が正答ではないか。
地球に存在する鉄より重い元素が合成された可能性のあるもの」との問いに対して、解答と解説では「超新星爆発時の元素合成」と「中性子星同士の合体時の元素合成」の2つのみが可能性があるものとして選択肢②を正解とされていました。
津村先生の解説動画も拝聴しましたが、これには首を傾げざるを得ません。
候補とされた元素合成のうち「ビッグバン時の元素合成」は論外として、問題は「星の内部での元素合成」です。
この文言を見る限り、核融合による元素合成と中性子捕獲による元素合成の両方を当然に含むものと考えます。確かに解説動画でも説明された通り、核融合では鉄より重い元素は合成されません(されてもすぐ鉄になる)。
しかし、中性子捕獲による元素合成のうち「s過程」と呼ばれるものであれば、鉄よりも重い元素は合成されます。s過程で合成された元素はAGB星中心核の外殻で起こるヘリウム殻フラッシュで外層へ運ばれ、外層の水素とともに星間空間へと放出され、また新たな恒星の材料とされます(「s過程」日本天文学会編『天文学辞典』)。
そして、太陽系にあるs過程の核種の生成には、漸近巨星分枝星(AGB星)内部で起こるs過程が主に寄与しているとされています(望月優子・佐藤勝彦「元素の起源」、シリーズ現代の天文学 第1巻『人類の住む宇宙』第2版 3章7節)。
これらを総合すると、問題文にある「地球に存在する鉄より重い元素が合成された可能性のあるもの」という条件に「星の内部での元素合成」も合致するものと思われます。
【回答】
ご質問をいただき、ありがとうございます。
ご指摘のとおり、星の内部でも鉄より重い元素が作られることがあります。
「星の中の核融合反応では鉄までしか作られず、鉄より重い元素は作られない」というのは正しいのですが、星の中の核融合反応ではなくて、中性子捕獲反応によって、鉄よりも重い元素が作られます。
中性子捕獲反応には、s過程(スロープロセス)というゆっくりとしたプロセスと、r過程(ラピッドプロセス)という早いプロセスの2つの反応があります。解説や2級解説動画で紹介した超新星爆発や中性子星連星の合体では、r過程が起こっていますが、s過程の方は星の中で起こります。
ご指摘にあるとおり、実際に宇宙で起こっている反応では鉄より重い元素が星の内部でも一部作られるパスは存在する事実がありますので、星の中でも、鉄よりも重い元素は、作られうるということで、本問の正答は「③3つ」とするのが正しいといえます。
しかし、ご質問者から頂戴した質問内容は、高校地学レベルを基準とする2級の水準と比して、高度で発展的な内容であり、2級公式テキストでは言及しておりません。試験は、公式テキストを出題範囲と指定していますので、2級公式テキストに書かれてあることだけを理解して試験にのぞむと、正答は「②2つ」となります。
検定委員会にて慎重に審議しました結果、本試験では、「②2つ」と「③3つ」の2つを正答とすることといたします。
ご指摘いただきました内容は、テキスト改訂時の参考とさせていただきます。なお、解答速報・2級解説動画に反映をして説明を補足いたしました。
貴重なご意見をありがとうございました。
■2級・問40
【問題】
生物種の5回の大量絶滅を表す次の図で、O/S境界はどれか。
①A
②B
③C
④D
【正答】
①
【解説】
O/S境界はオルドビス紀とシルル紀の境界。
なお、BはF/F境界、CはP/T境界、DはT/J境界、EはK/Pg境界と呼ばれる。
例外もあるが、おおむね、境界を挟む“紀”の頭文字が使われている。
【質問】
解答は①ですが、そもそもこの問題は理解できないところがあります。
問題にはA,B,C,D,Eとありますが、選択肢には①A②B③C④Dとあります。
問題にEは必要ないと思います。
問題として成立していないのではないでしょうか?
【回答】
ご質問をいただき、ありがとうございます。
問題文に「生物種の5回の大量絶滅を表す次の図で」とございますとおり、図中のA、B、C、D、Eが示しているのは、カンブリア紀以降に5回起きた生物種の大量絶滅の時期です。
当試験は四択ですので、正答ではないEのK/Pg境界は選択肢から外しておりますが、
5回のうちの1回のため図には残しました。
■2級・問57
【問題】
地球誕生時から現在までの地球大気について述べた文のうち、間違っているものはどれか。
①地球が誕生したとき、地球大気のほとんどは二酸化炭素であった
②窒素は、地球誕生時から現在までほぼ同じ量を保っている
③地球大気の酸素は、光合成生物によってつくられた
④光合成生物によってつくられた酸素は、ただちに大気中に拡散して酸素の量を増やしていった
【正答】
④
【解説】
生命は海中で発生して進化していったが、太陽の強烈な紫外線のため、地上では生息できなかった。この生物の中から光合成生物が発生し、酸素を海中に放出するようになった。しかし、放出された酸素は、海中の鉄イオンと反応して酸化鉄となり、大気中にはなかなか拡散できなかった。大気中に拡散するようになったのは、海中の鉄イオンがなくなってからであり、光合成生物が出現してからおよそ10億年後のことである。したがって、「ただちに大気中に拡散して」という記述の部分が誤りで、④が正答となる。①~③は正しい記述である。
なお、地球誕生時に大量にあった二酸化炭素は、地球に海が誕生し、海中に溶けた二酸化炭素が海中のカルシウムイオンと反応して炭酸カルシウムになり、海底に沈殿していった。そのため、大気中の二酸化炭素は徐々に減少していった。海底に沈殿した炭酸カルシウムは、堆積して石灰岩に変わっていった。
【質問】
問57の解答は④になっていますが。②も間違っているのではないでしょうか。
②窒素は、地球誕生時から現在まで同じ量を保っているとありますが、始生代(約35億年頃)は減少しています。この減少はほぼ同じ量を保っているとは理解しにくいです。
【回答】
ご質問をいただき、ありがとうございます。
2級公式テキストp.145 図表10-10 の縦軸は対数値なので、35億年ごろにおける窒素分圧の減少は見かけよりは大きいですが、それでも、2倍程度の変化に留まっており、桁で変化しているわけではありません。また、このような測定値や推測値には常に不確定性を含んでいます。不確定性の評価の観点も含め、窒素分圧は、“ほぼ同じ”とか“あまり変わっていない”などと表現して差し支えないかと思います。それに対して、この図に示されている他の元素(二酸化炭素、酸素、アルゴン)は、それぞれ桁違いに変化していますので、それらの元素の変化に比べ、窒素はほぼ一定としても差支えはないと思います。