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○第10回天文宇宙検定受験者データおよび講評

○第10回天文宇宙検定(2020年11月22日開催)


●最年少受験者

1級 10歳
2級 8歳
3級 6歳
4級 5歳

●最高齢受験者

1級 73歳
2級 82歳
3級 87歳
4級 76歳

※年齢は受験申込時に受験者本人様に提出いただいた情報によります

●受験者男女比率

1級:男性 82.0%、女性 18.0%
2級:男性 66.4%、女性 33.6%
3級:男性 53.6%、女性 46.4%
4級:男性 49.9%、女性 50.1%

●合格率

1級:1.0%
2級:36.2%
3級:79.0%
4級:85.6%

●最高得点

1級:77点
2級:96点
3級:96点
4級:100点

●平均点

1級:46.0点
2級:62.7点
3級:70.2点
4級:74.6点

〇第10回天文宇宙検定講評

2020年11月22日(日)開催の第10回試験は、コロナ禍での開催となりましたが、例年と変わらず多くの方々に参加いただきました。受験された皆様には、検温や会場での私語を控えていただく等のご協力をいただき、また、体調に不安のある方には参加をお見送りいただく等のご配慮もいただきましたおかげで、つつがなく無事に検定試験を終えることができました。
参加いただいた受験者の皆様、試験監督官をお引き受けいただいたスタッフの皆様、変わらぬご支援をいただいた協賛・協力団体の皆様に、この場を借りてあらためて心より御礼申し上げます。
以下に、第10回試験の講評文をアップします。解答速報と併せてご覧ください。(第10回解答速報の公開は終了しました)

■4級

4級受験者数は前年より微減。今回は、合格率85.6%、平均点74.6点であり、この数年間で最も高かったが、試験後に受験者からの指摘を受けて全員正解とした問題が2問あったことの影響も否めない。最高点は前回に続いて全問正解者が出ている。受験者を年齢層からみると10代以下の若年層が47.8%を占めており、昨年に引き続き5歳での最年少合格者も出た。
正答率が最も高かったのは、【問14】星座早見盤で調べられることを問う問題(正答率97.3%)、続いて、【問21】太陽の観察で使ってよいものを選ぶ問題(正答率94.9%)、【問4】小惑星リュウグウのサンプルを持って帰った探査機の名前を問う問題(正答率94.1%)であった。他に90%を超えたものは、【問9】(91.7%)【問12】(91.2%)【問8】(90.9%)【問39】(90.4%)と、併せて計7問あった。
暗記問題では高い正答率が見られる一方で、正答率が低かった問題には、先入観や思い込みから正答に辿り着けなかった傾向が見られる。たとえば、【問32】金星が最も明るく見えるときに、望遠鏡で金星を見るとどのような形に見えるか」(正答率33.1%)では、38.1%の人が④の満月型を選んだ。なかなか金星の満ち欠けを見る機会はないが、科学館・プラネタリウムなどで開催している観望会に参加してみることをお勧めしたい。ガリレオが望遠鏡で見た天体のスケッチを残したように、意外な発見に驚くかもしれない。【問34】天の川銀河に最も近い銀河を答える問題(正答率39.5%)では、約46%の方が②のアンドロメダ銀河を選択した。大マゼラン雲も銀河であるという認識がテキストから得られにくかったのかもしれないという反省を『公式テキスト』の著者らにもたらした結果だった。【問17】太陽・月・地球が描かれた図から、見られる天体現象を問う問題(正答率45.1%)は、空間認知能力が試される問題かもしれない。約半数(49.1%)の方が、①の皆既日食を選択したが、太陽、月、地球の相互の距離の関係で皆既日食になるか金環日食になるか決まるので、改めて図をじっくりと見ておさらいしてほしい。【問20】こと座の環状星雲M57についての問題(正答率48.3%)では、約30%の方が④を選択。星雲というとオリオン大星雲のように、星が誕生しているところという印象があるが、惑星状星雲は星が死んでいくときにできるということを覚えておこう。正答率が50%を割ったのは他に【問18】土星の輪の見え方についての問題、【問37】上弦の月の見え方についての問題だった。

■3級

幅広い年齢層が受験しているのは例年と変わらない。受験者分布では、20代以下で50%を超えている。20~50代では女性が男性を上回った。合格率は前回(81.8%)には及ばなかったものの、79.0%、平均点も70.2点で高い水準を維持している。コロナ禍で「おうち時間」が増え、いつもより試験勉強にあてる時間が増えたことが影響したのか、10歳未満の合格率は前回(57.9%)を大きく上回り72.7%に及んだ。最年少の合格者は6歳の未就学児であった。
正答率が高かった問題は、【問1】太陽の正しい天文符号を選ぶ問題(正答率100.0%)、【問2】図から正しい古代の宇宙観を選ぶ問題(正答率95.8%)、【問4】ジャイアントインパクト説の正しい説明を選ぶ問題(正答率95.1%)。【問48】2020年に多くの火星探査機が打ち上げられた理由を問う問題(正答率93.4%)。【問36】月の公転周期と自転周期が同じことに関係する現象を問う問題(正答率92.3%)。上位中4問は、基礎的な定番問題ともいえる。受験者が過去問題から傾向と対策を立てている表れだろう。火星大接近はおよそ2年ごとに各メディアでも報道されていることも要因と考えられる。
一方、正答率が低かったのが、【問14】肉眼で見える星の範囲は銀河系の大きさと比較してどれくらいかを問う問題(正答率11.0%)。①10000分の1を選んだ受験者が66.6%と圧倒的に多かった。主要な天体の大きさや距離などは覚えておくと、計算問題が出題されても慌てることなく正答を導くことできるだろう。次に【問37】彗星の模式図から、彗星の進む向きを問う問題(正答率21.4%)。この模式図には太陽方向が明記されていないことに注意。【問11】日没にかかる時間を問う問題(正答率26.6%)。テキストの3章1節の太陽の動きと地球の自転の関係を理解しよう。【問29】惑星以外で環が見つかっている天体を問う問題(正答率28.5%)では、「衛星と準惑星」を選んだ方が多かったが、衛星には環が見つかっていない。本検定は問題数が多い(3級は50分で60問を解答する)ので、選択肢が変則的になると混乱してしまう傾向があるようだ。また、正答率が低い問題の特徴としては、毎年のことだが応用問題が多い。日頃から覚えた知識を使って別の角度から考えることを意識しておくことをお勧めする。

■2級

まずは、今試験において、2級試験問題に試験会場で問題文の訂正があり、混乱を招いた点をお詫び申し上げます。

近年、2級受験者数が増加しており、昨年に引き続き今回も3級の受験者数を上回った。特に20代、30代の受験者数が昨年より増加した。また、2級は高校地学で学ぶレベルの内容だが、小学生、中学生でチャレンジされる方も増えつつあり、今回は4年ぶりに10歳未満の合格者が出た。
正答率が9割を超えたのは次の2問。【問28】黒点が黒く見える理由を選ぶ問題(正答率98.6%)、【問34】太陽コロナに関する間違った記述を選ぶ問題(正答率92.0%)。【問21】宇宙の晴れ上がりとはどのような現象かを選ぶ問題(正答率88.8%)、【問51】図の測定装置について正しく説明したものを選ぶ問題(正答率88.6%)。
正答率が低かった問題は、【問46】明治時代に行われた改暦についての問題(正答率7.2%)。歴史的な出来事と天文学史が正確に結び付けられていないと正答に辿り着けない。次が【問41】太陽コロナのうち光源が太陽の光球からの光ではないものを選ぶ問題(正答率18.7%)。EコロナのEは「輝線」を意味する“Emission”に由来している。Fコロナ、Kコロナの語源もチェックしておこう。【問18】天文学史における重要な発見の順番を問うた問題(正答率21.7%)、【問30】銀河系の中心が太陽系ではないことが初めて示された際の根拠を選ぶ問題。(正答率25.9%)と続く。
当検定の2~4級の試験問題は、『公式テキスト』からのみ出題されるので、当然、『公式テキスト』を読み込むことが合否を分けるともいえる。たとえば、【問55】宇宙全体の元素の存在比を問う問題(正答率79.3%)は、テキスト掲載の図表を暗記していれば解ける問題だ。しかし、類似問題である【問23】太陽大気に存在する元素個数を多い順に正しく並べたものを選ぶ問題(正答率29.5%)は、太陽の周りに原始太陽系円盤が形成され、その中の重元素が集まって地球などの惑星がつくられた過程の理解が問われる。今回、得点数のピークは60点から69点のところにあり、あと一歩で合格という方も少なくなかった。次回もぜひ挑戦して合格を勝ち取っていただきたい。

■1級

1級受験には2級合格が条件となるが、挑戦されるのは初回から変わらず男性優位で、50代・60代が多い傾向は今年も同じであった。ただ、今年は20代の挑戦者が若干増加した。合格率は、第8回0.8%、第9回7.0%と推移してきて、今回は1.0%。平均点の46点は昨年よりも6点ほど低かった。今回は出題問題の後半に向かって正答率が低くなる傾向が顕著で、アンケートでも時間が足らなかったという声もあった。1級試験の問題数は40問だが、よく考えを巡らせなくてはならない問題も多いため、時間配分が合格のための鍵でもあろう。正答率が高かった問題は次の6問。【問25】クェーサー3C 273のスペクトル図からその赤方偏移を求める問題(92.0%)。【問4】ダークマターの存在を示す証拠として不適切なものを選ぶ問題(91.0%)。【問34】天文学で常用されるギリシャ文字に関する問題(89.0%)。いずれも、1級の公式参考書『極・宇宙を解く』の記述内容から出題されたもの。1級試験問題のうち4割程度が出題される参考書をよく読み込んで試験に臨まれていることがうかがえる。一方で、問題正答率が低かったのは、【問17】重力平衡状態にある星について正しい記述を選ぶ問題(5.0%)。【問40】南天の星座「ぼうえんきょう座」のモデルとなった望遠鏡を問う問題(7.0%)。【問38】惑星探査機「ボイジャー」搭載のレコードに収録されていない音楽を選ぶ問題(9.0%)。【問37】中国の月探査機「嫦娥(じょうが)」に関する誤った記述を選ぶ問題(14.0%)。4問のうち、問17が参考書の記述をアレンジして出題されたものである以外は、天文学史・時事問題である。例年、広範に及ぶ1級の出題範囲の中でも、天文学史に関する問題は正答率が低い傾向がみられる。受験者に向けて、推薦図書の提示などの対応も検討すべきかもしれない。

■総括

さて、本検定もついに節目の10年目となった。ここまで続けてこられたのは、ひとえに受検者の方々のおかげであり、開催スタッフやテキスト執筆者が頑張れるのも受検者の方々の期待と叱咤激励のおかげである。あらためて、深く感謝いたします。
さて、今回、始めて受検された方もおられれば、2度目の方、さらには何度もチャレンジされた方もおられるだろう。公式テキストは2年に1回の割で少しずつ改訂しているので、2度目3度目の方は途中でテキストが新しくなった方も多いだろう。天文学は日進月歩の分野であり、この10年ほどに限っても、重力をもたらすヒッグス粒子の発見(2012年)、プランク衛星による宇宙論パラメータの発表(2013年)、探査機ロゼッタの着陸機フィラエがチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸(2014年)、ニューホライズンの冥王星到達(2015年)、重力波の初検出(2016年発表)、中性子星合体の対応天体検出(2017年)、はやぶさ2の小惑星リュウグウ到着(2018年)と帰還(2020年)、ブラックホールシャドウの撮影成功(2019年)、ブラックホール研究でのノーベル物理学賞(2020年)、などなど、ほぼ毎年、大きな発見があった。これら最先端の知見を少しでも早く反映するための2年ごとの改訂である。テキスト本文自体はあまり大きな改訂はないが、グラビア・傍注・コラムなどの変化を愉しんでいただきたい。また本文の内容なども含め、その級のテキストとして不満な点などあれば、ご意見やご要望を寄せていただければ次回の改訂で検討いたしたい。
初回から続く傾向としては、2級や1級で出てくる数式問題について、一般に正答率が低くなることがある。数式を使わないと計算や現象を表せないわけではない。実際、江戸時代の和算もそうだし、メソポタミアなどの古代文明でも、数式を使わずに、さまざまな計算をしていた。ただし、それらは非常に複雑になる。数式を使えば、非常にエレガントに表現や答えの導出ができるのだ。昔の算法と比べれば、数式によって表現方法が大きく進化したわけである。そういう観点からも、数式の“ありがたさ”を今一度、考えてほしい。
また同じく初回から続く傾向としては、天文学史や宇宙開発・時事などの正答率が低いということもある。一般の人からみると、天文学史はともかく、宇宙だから天文も宇宙飛行士も同じ分野のように思われることが多い。しかし、研究的な側面からは、分野としても研究者の集団としても、天文学研究と宇宙開発と天文学史は、大きく違った分野なのだ。ここだけの話だが、講評子も天文分野に所属しており、実は宇宙開発や天文学史は苦手である。にもかかわらず、天文宇宙検定として、これらすべてを扱っているのは、やはり広い意味では天文学に関わる興味深い分野だと考えているからだ。苦手な分野も一緒に勉強していきましょう。
新しいことを学ぶこと、無駄な知識を覚えること、そして不思議な現象を理解すること、などなどに歓びを見いだしながら、これからも天文宇宙検定を愉しんでいただければ幸いである。

2021年2月吉日
天文宇宙検定委員会