第15回天文宇宙検定 受験者データおよび講評
お詫び——名古屋会場の試験開始時刻遅延について
第15回検定試験では、運営事務局の不手際が原因で、名古屋会場において試験問題冊子の到着が遅れるという事故が生じました。この影響により、名古屋会場の試験開始時刻が1時間遅れ、一部の受験予定の方々には、受験を断念いただかざるを得ないなど、多大なご迷惑をおかけしてしまいました。誠に申し訳ございませんでした。衷心より深くお詫び申し上げます。今後、同様の事故が生じないよう、万全の対応を講じてまいります。
各級合格率・最高得点・平均点
試験問題の難易度
1)正答率の高かった問題
最も正答率が高かった(やさしかった)問題を1位として、各級の上位10位までを並べた。
「問No.」は、試験出題番号を表す。詳細は後述。
2)正答率の低かった問題
最も正答率が低かった(難しかった)問題を最下位に、各級の正答率が低い順に10位までを並べた。
「問No.」は、試験出題番号。
1・4級の出題数は全40問、2・3級は全60問が出題された。詳細は後述。
年齢別合格率
年齢別の合格率は以下のとおりであった。各級最下段の計は、各級の総受験者の合格率を示す。
点数分布
各級の受験者の点数分布は以下のとおりであった。表の太線が合否の境界を示す。
1級の場合、60点以上で、準1級合格、70点以上で1級合格となる。
4級
今回の4級試験の合格率は82.7%。4級受験者の約6割を10歳未満と10代で占めた。年齢別の合格率は、30代以上ではほぼ90%以上であった。
正答率が9割を超えた問題は、次の3問。
【問22】地球は、どの天体の仲間か(97.2%)。正答は「惑星」。地球は自分で光を出す恒星(太陽)のまわりを回る惑星である。
【問14】星座早見ばんで、調べられるものはどれか。(95.2%)。正答は「①その日時の星座の位置」。惑星・月・彗星は、星座早見ばんには表示されていない。
【問5】次のうち、一番明るい星はどれか(93.5%)。数字が小さいほど明るいので、正答は「④-3等級の星」が最も明るい。
正答率が低かった問題は、以下が挙げられる。
【問31】太陽について、まちがっているものはどれか(19.3%)。正答は、「②日本から太陽を数日間連続して観測すると、黒点が西から東へ移動しているのがわかる」。太陽も自転しているので、地球から連続観測すると、黒点が太陽表面をまるで移動しているように見える。太陽の自転の向きは地球の自転と同じで左回り(反時計回り)なので、地球から見て、左から右へ動いて見える。つまり選択肢②の「黒点が西から東へ移動している」は移動の向きが逆であり、まちがいといえる。
【問18】地球の内部について、正しいものはどれか(25.6%)。正答は「③外核は液体、内核は固体になっている」。地球の中心部にある内核は、固体の鉄・ニッケルでできている。
【問25】火星のオリンポス山について、まちがっているものはどれか(30.9%)。正答は「③マリネリス峡谷のすぐ横にある」。4級公式テキストの火星表面の地図を見直してみよう。広い裾野をもったオリンポス山は、マリネリス峡谷と離れた場所にある。
3級
今回の合格率はほぼ前回と同じ74.5%。10代の合格率の低さが目立つ結果となった。
正答率が9割を超えた問題は、次の4問。
【問4】月の誕生に関係する最も有力な学説であるジャイアントインパクト説とはどのようなものか。(97.0%)。正答は「④原始地球に火星サイズの原始惑星が衝突し、地球や小天体の破片が集まって月ができた」。『3級公式テキスト』には、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト他制作のジャイアントインパクトのシミュレーション動画をQRコードで掲載している。
【問16】次の天体のうち、人類が送った探査機が着陸したことがないものはどれか(94.7%)。正答は「③水星」。火星・月・小惑星には、探査機が着陸している。
【問53】皆既月食中の月が赤かったのはなぜか(94.7%)。正答は「②地球の大気を通過した太陽光が照らすため」。地球の大気層を通過した太陽光は、大気層で屈折して進路が曲がり、さらに青い光は散乱されるため、残りの赤い光が地球の影に入った月を照らす。そのため、月食中の月は赤く見える。
【問17】「宇宙」という言葉が表す意味として、正しいものは次のうちどれか(94.0%)。正答「①空間と時間」。中国の前漢時代の論集 『淮南子(えなんじ)』に由来するという。
正答率が低かった問題は、以下が挙げられる。
【問37】太陽から土星までの平均距離はおよそ何 auか(31.7%)。正答は「②10 au」。太陽から地球までが1 au。そのおよそ10倍の位置に土星がある。海王星は太陽からおよそ30 au離れている。
【問31】次の4人の中で、近世ヨーロッパのポーランド出身の天文学者は誰か(33.2%)。正答は「③ニコラス・コペルニクス」。彼が地動説を主張した『天球回転論』は、コペルニクスが亡くなる年に出版された。
【問58】太陽の日周運動を基にした時刻システムを太陽時といい、日常生活では一定の動きをする仮想的な太陽で考えた平均太陽時を用いる。では、実際の太陽の運動を用いた時刻を何というか。(33.6%)。正答は「①真太陽時」。紛らわしい選択肢に惑わされた受験者が多かったようである。
2級
平均合格率はほぼ前年並みであった。高校地学レベルという2級の試験水準から、10歳未満・10代合格率は低めになるのも例年通りの特徴である。
正答率が高かった問題は上から順に以下の通り。
【問20】化学的には同じだが、立体構造が鏡映対称になっている分子を何と呼ぶか。(87.4%)。正答は「④D(dextrorotatory)型と L(levorotatory)型」。問題には図が添えられている。生命のホモキラリティー問題については宇宙に興味をもつ者にとっても興味深い謎であり、注目度が高いことが正答率の高さに現れたようだ。
【問45】質量が太陽の質量の0.08倍以下の原始星の、その後の進化を表すものはどれか(86.8%)。正答は「①原始星→褐色矮星」。恒星の進化についての問題は2級の定番問題ともいえる。
【問22】皆既日食の観測の際に発見され、当時太陽にしかないと考えられていた元素はどれか。(86.2%)。正答は「①ヘリウム」。
【問44】太陽光を分光し、その中にバーコードのような暗線574本を最初に発見したのは誰か。(86.0%)。正答は「②ヨゼフ・フォン・フラウンホーファー」。
正答率が低かった問題は、以下が挙げられる。
【問48】次の文章中の【 ア 】、【 イ 】に当てはまる数値と語の組み合わせとして正しいものはどれか。「すべての恒星は、地球の公転運動によって長半径 a =約【 ア 】の楕円軌道を描く。これは【 イ 】と呼ばれ、地球が太陽の周りを公転している直接的な証拠の1つである。」(16.6%)。正答は「③ア:20″ イ:年周光行差」。年周光行差は1728年にジェームズ・ブラッドリーによって発見され、地球が公転しているという地動説が実証された。
【問60】次のうちベテルギウスについて正しく述べたものはどれか(19.9%)。正答は「④恒星の内部にはこの星で生成されたネオンがある」。赤色超巨星の段階に進んでいるベテルギウスの中心部ではシリコンや鉄を生成する核融合反応が進行するが、それ以前の赤色巨星の段階で生成したネオンやマグネシウムがある。
【問53】小惑星リュウグウについての記述のうち、間違っているのはどれか(25.6%)。正答は「④粒子の化学的特徴は、エコンドライト隕石と似ている」。エコンドライトは溶融を経験している隕石で、リュウグウはその起源から溶融は経験していないと考えられる。
1級・準1級
正答率が高かった問題は上から順に以下の通り。
【問22】オーロラの発光原理と同様のものを選べ(80.2%)。正答は「②蛍光灯」。
【問8】日本人と火星のかかわりについて、誤っているものを選べ(69.2%)。正答は、「②日本人が初めて望遠鏡で火星を見たのは明治時代になってからである」。江戸時代には、望遠鏡で火星を観測した日本人が存在する。
【問9】ある望遠鏡ではM型主系列星を1 kpcまで検出することができるが、それより遠いと暗くて検出できない。M型主系列星より光度が100万倍明るいM型超巨星を、この望遠鏡で検出できる限界の距離として最も適切なものを選べ。ただし、星間吸収は無視できるものとする(69.2%)。正答は「③1 Mpc」。
正答率が低かった問題は、以下が挙げられる。
【問35】2本のフリードマン=ルメートル方程式から、宇宙のエネルギー保存の式を導く際に使う仮定はどれか(8.8%)。正答は「④圧力を無視する」。
【問7】図(解答速報参照)は、横軸に振動数νの対数を、縦軸に電磁波の強度Fνの対数をとって表した電磁波スペクトルである。スペクトル指数が1.5のべき乗型スペクトルを選べ(14.3%)。政党は「②」
【問39】1992年に毛利衛宇宙飛行士は、宇宙環境が生物の概日性リズム(1日の生体リズム)に及ぼす影響を調べる実験を行った。その実験のサンプルは次のうちどれか(15.4%)。正答は「④アカパンカビ」
【問17】光学的厚みが1の媒質を通過すると光線の強さはどうなるか(17.6%)。政党は「②1/3ぐらいに減る」
第15回天文宇宙検定 講評
今回の試験では、2011年から15回開催してきた検定試験で初めて、1級合格者が0名という結果となった。過去1級試験は13回開催されている(第1回・第11回は1級試験未開催)。時に1%を切るような非常に低い合格率ながら、天文宇宙博士の称号を得る合格者を毎回輩出してきただけに残念である。天文学の普及を目指す我々としても、勉強会などの機会の提供などが必要なのではという意見もあり、検討を進めたいところである。
1級の合格者はもともと多くはないので統計学的には起こりうる結果だが、そもそも1級の合格者が少ない理由を改めて分析しておきたい。いままでの講評でも書いたように、おおむね、4級から1級は小中高大ぐらいのレベルに相当している。ただし、たとえば2級は高校生レベルとはいっても、高校における天文学は地学の一部(1/4程度)なので、分量的には高校の内容より多いかもしれない。実際、理系大学の学生や(文系大学に分類される)教育系大学の理系学生は、高校で地学を履修していないことが多いので、大学1回生の必修授業(半年15回)で2級テキストが非常に使いよい。同様に、1級参考書『極・宇宙を解く』は、理系大学や教育系大学理系などで、2回生~3回生向けのテキストによい(分量が多いので、半年で半分ぐらいしかできないが)。
このように、教育系大学などでは、2級テキストと1級参考書がスムーズに接続して使用されることもあるのに、1級が格段に難しくなる原因は2つほどある。一つは1級で扱う範囲(分量)が非常に多くなることだ。ただ、2級と重なっている内容も多いので、まったく新しい内容や用語は思うほどはないだろう。もう一つは、質的な問題として、数学的な計算と物理的な解釈が深くなっている点だ。すなわち、大学初年級で習う(復習する)、微積分や微分方程式などの数学的処方や力学その他の物理が、1級参考書では(簡単な説明はあるが)ふつうに使われている。大学であれば1回生でいろいろ学んだ後に、1級参考書へスムーズに接続できるが、一般的には、ここらへんが1級のハードルを上げているのではないかと考えられる。逆に言えば、若干の遠回りだが、天文学だけでなく、大学初年級の数学と諸科学(とくに、微積分と微分方程式と力学)も合わせて勉強してもらえると、『極・宇宙を解く』などの理解も深く速くなると思う。宇宙や物質をより深く理解するためには物理的知識が不可欠であるし、物理的知識を得るためには、数学という言語を習熟する必要があるわけだ。私事で申し訳ないが、筆者も還暦をすぎてから「場の量子論」に挑戦しているものの、難しくてまだまだである。でも少しずつでもわかると面白い! いくつになっても、学ぶことは楽しい、そういう境地にやがて達してほしいと思うところである。
2023年7月吉日
天文宇宙検定委員会